牡丹雪✱r18 - 9/11

 こんな夢を見ました。
 まるで、幼いころに読んだ夢十夜の世界に私が迷い込んでしまったのではなかろうかと。
 朧気の景色の中。暗闇にポッ、と炎が浮かびます。
 はて、なんでしょう。と目を凝らすと、やがて橙色が滲んでいきます。行灯でした。
 障子越しに光が滲みます。障子には影が蠢きました。人の形を為していました。大きな影はうねるように動いて、やがて手の形をした影が伸ばされます。もうひとつの影に触れて、二つの影は、折り重なるように、ぷつ、と下に倒れていく。
 風がびゅうと吹きました。縁側からの風は、障子の隙間に入っていく。
 行灯はやがて輪郭を次々と描きます。八畳のお部屋。敷かれた一式の布団。二人重なる肌のお色は真っ白で。
 ほどけかけた赤い前髪に、長くて絹のような指が愛おしげに撫でる仕草。そしてうなじに手を絡めて、キスを。
 下に組み敷かれている人は、キスを深めながら、うなじに置いた指を、長着の襟に包まれた背筋にかけて、下に沈ませました。
 その相手は熱い息を零しながら、

『ダイゴ』

 耳元に寄せて、愛おしげにかける言葉は、とてもつややかな声色。ワタルさまのお声。
 行灯がそのときフッと煙をまいて消えてしまいます。するりと差し込んだ光。

『みてごらん。月がよく見えるな』

 ワタルさまが、喘ぎ声を細く靡かせたツワブキさまのもったり赤く熟れた頬に、分厚い手で触れます。そうするとツワブキさまが、驚いて、目を見開きます。顔の半分以上が隠れていても、動揺が見て取れました。

『光が陰る頃には、……きっと』

 そうワタルさまが言いまして、さらに耳元に唇を寄せると、何かを、ぼそぼそ、と、ツワブキさまに足しておっしゃいます。ツワブキさまは、それを聞いて、ほんのり赤らんでいる耳を震わせながら、わずかに、顎だけをこくりと動かしました。

『わかった』

 今度はしっかり頷いて。

『きみの、手のままに』

 そう言って自分の帯をほどきます。
 くた、と長着が崩れて、月明かりのもと、真っ白な肌が露に。
 ワタルさまは、布団のすぐ横に置かれていた葛湯の入れた深皿に指をつぷ、と入れます。
 抜けば、ワタルさまの指を追いかけるように糸を引きました。

『ん……ッ』

 お腹を指で擦れば、葛湯の感触にツワブキさまがぎゅ、と目をつぶります。

『ぁ、……はッ……』

 ワタルさまは指を徐々に下へ這わせていきます。ツワブキさまは口を手で押えて、はふはふと息を切らしていきます。
 グジュ、と潰れる音が聞こえてきました。やおら立ち上がった影を手で扱きます。しごけば、泡立った粘り気のある汁がボタボタと零れて、お尻を伝い、布団を汚していきました。

『んッ……ぁ、ぐ……』

 ツワブキさまが身を捩っても、ワタルさまは手を止めようとはしません。くたびれたツワブキさまの長着の下で、ぐじゅぐじゅとした音が響きます。

『んッ……んんッ……ぁ、アッ!』

 ビクッ! とツワブキ様が跳ねました。上半身だけをしならせて、後頭部を布団に押し付けます。ふるふる何かをいやがるように頭を振りますが、ワタルさまはつる、と

『……いれるよ』
『ッ……く、』

 葛湯を右の指に足します。

『ッぁ……いたッ……』

 もう左手の指は、ピク、と揺れる太ももに這わせて、高く持ち上げます。胸元にはキスを。ツワブキさまがブルッと震えました。
 つぷ、と音が聞こえました。太ももの間に指が潜り込んでいきます。高く浮いたお尻の肌に葛湯が滑って白濁と泡立って落ちていく。

『んッ……ぅ、……ん、んッ……』

 右肩から落ちた長着に気にするなく、ワタルさまが舌をちろ、と出して、

『ッぁ……!』

 乳首に噛みつきます。ちゅぅ、と吸って、何度か舌で転がせば、口を離すとすっかり赤くぽってりと膨らんでいました。

『やわっこい』
『……いちいち言わなくて、いいから』
『下も、な』
『ッぐ……』

 ぐぷ、という音を最後に、指が引き抜かれます。また指を糸が追いかけて、ぷっつりと切れれば、ワタルさまは指を口に含むと、今度は葛湯ではなく唾液で湿らして、

『、わ、たる、』

 ツワブキさまの身体をひっくり返し。

『息を、深く』

 そう言ってツワブキさまのお尻の肉を掴み、優しくめくるように割り裂けば、

『ッ……ぁ、……ぐ』

 ワタルさまが、ゆっくりと、上から覆い被さるように腰を落としていって。ツワブキさまを逃がさないように、肌をだんだんと密着していきます。
 釘を、打つようなさまでした。
 二人の身体が、肌と肌が重なっていけばいくほど、つぷ。つぷ、つぷぷ。と。なにか柔らかいものと柔いものが絡み合うような音が聞こえて、わたしはたまげました。

『ウッ……ッうゥッ……!』

 ぎゅっ、と目を瞑れば、苦しげで、くぐもったお声が聞こえます。

『こら。目をつぶっては、いけないよ』

 そのお声を掻い潜りながら、ワタルさまは優しげなお声で、ツワブキさまをなだめます。逃げようとして、敷き布団を引っ掻く爪を、ワタルさまの大きくて分厚くて角張った手のひらが覆い隠し、ぎゅ、っと握ってねじ伏せました。

『ふ……ッ……』
『唇も噛まない』

 うっとりした表情で、指をツワブキさまの口の中へ含ませます。舌をやわ、と人差し指と中指で揉めば、気持ちよさそうに涎を垂らしながらツワブキさまが甘く喘ぎます。

『聞かせて、もっと』

 声は、たまらなく、甘いのに。
 わたしには見えてしまいました。横顔だけでもその殺気は充分でした。
 逃がさないなんて決して許さないよう、あの方の眼光が鋭くツワブキさまを見下ろしていましたことを、わたしだけが、知ってしまいました。
 ワタルさまがそのお顔、特に唇をツワブキさまの耳元へ寄せます。

『よく見て、おれのことを』

 ツワブキさまの耳たぶがピクピクしました。

『ほら。きみの目に浮かぶ顔だ』
『な、ん……ッ』
『食らってごらん』

 舌をやわらげる指を使って、無理やり後ろに向かせます。もう一度、深いキスを。

『ん……ッぅ、』
『ふ…………』

 つる、と、飲み込みきれない唾液がボタボタに落ちていきます。腰を揺さぶったまま、身を重ねているとツワブキさまが気持ちよさそうに鼻から息を漏らしました。

『んッ……ん、ぁ……んんッ……』

 ようやく口を離せば、か細くツワブキさまがなにかを。

『ぁ、……ぅ、う……ッ』
『うん……?』

 ワタルさまが後ろから耳たぶを噛んで、舐めて、催促を。

『、め、……い、』
『はっきり』
『イッ……く、……きそうッ……』

 窓から、光がまっすぐと差し込みました。雷鳴でも落ちたかと思いました。一瞬、痛く部屋が白い光に包まれた気がしたのは、きっと私にとってその光景が脳天に突き刺さるほどの強烈なもの。

『んぁッ……ぁッ!! アッぅぐ、……ぁ、アぁーーッ……!!』

 甲高い声と一緒に。ツワブキさまのお声でした。確かに、そう。ツワブキさまの、お声。

『ッ……ん、……ぁ、ぁアッ……』

 悲鳴に近いような、それでもやはり気持ちの良さそうなお声。
 しばらく枕に抱きついたまま放心していたツワブキさまを真顔で見下ろせば、ずる、と音が聞こえてワタルさまが身体を起こします。

『ぅ、……え……』

 お尻にキスをすれば、ツワブキさまが信じられないとでも言うように振り向きます。

『わたる……ちょ、っと、』

 ワタルさまがはだけた肌に吸い込まれるように舌を這わせます。まずは太ももの裏を。歯を剥き出しにして荒く噛みます。

『いッ』

 びくりと、ツワブキさまが跳ねると、手のひらで押さえつけながら口を離しました。すっかり赤く鬱血して歯型がくっきりと残ります。
 すぐに舌をちろりと出して、今度は太ももの付け根、尾てい骨、腰のでっぱった骨をやわらかく食む。手も一緒になってするすると撫でれば、ツワブキさまのしなっていく背骨をまっすぐに愛おしみます。まるで、獲物を食らう前に手入れを施すような。

『きもちいいな。……な、そうだろ。もっと見せてくれよ』

 獰猛さ。なのに、甘ったるい目線は、どろどろに優しくて熱い。
 肩口に鼻を埋めると、ワタルさまは息を深く吸った。そしてガリリッと、

『ひッ……ぐ、』

 噛んで、舐めて。和らげて。硬直した皮膚をほぐすように。
 ツワブキさまの俯いた顎を掴みます。後ろに向かせ、今度は貪るようなキスを。歯列をなぞって鋭い牙が唇の皮膚に引っかかって切れてしまう。ぷつ、と垂れてしまった血を、ぽってりと膨らんだ唇の肉を味わうように口に含むワタルさま。

『ん、む……、んッ……ぁ、……ッ』

 痛そうなのに、気持ちよさそうに眉をしかめて汗が額に滲みます。ツワブキさまが、気持ちよさそうに喉の奥で声を漏らしながら、一生懸命食いつきます。
 口を離すと、とろ、と露が垂れて。

『時期尚早とは、言ったものだが』

 ワタルさまがすっかりボロボロの唇を指の腹で揉めば、

『きみは、すぐに真っ赤になるなあ』

 唇も、頬も、鎖骨も、胸も。上から下にかけて、長着から空気にさらけ出されているツワブキさまの白い皮膚は、すっかり。

『ほんとうにほんとうに』

 ゆだったように赤かったのですから。

『……熟してしまおうか』

 果肉を潰すように、ワタルさまはもう一度深くツワブキさまの身体を布団に押し付けました。枕にしがみついて、ツワブキさまは腰が震えます。見開いた目からはボタ、と大粒の涙を垂らして。
 口からはだらしない喘ぎ声を。乱れた音を弾ませて。

『ぁ、……うッぁ、……や、……や、ぁ……ッ』

 しっとりと汗ばんだ肩口に、必死に声を上げるツワブキさまに、ワタルさまは宥めるように、

『ん……? 大丈夫。安心して』
『……む、……り、ぃ、……ッ……ぅ、うッ』
『ほら、……もう少し、奥まで』
『だ、だめ、……だ、ァ……ッあッ、』
『おいで、ダイゴ。平気だろ。……きみなら』

 ちゅ、とキスをすれば。ツワブキさまも応えるように肩口に埋める鼻にキスを返そうとするけれども。

『、……ぅんッ……』

 ワタルさまが先程噛んだ歯型。すっかり鬱血して血が固まっているそこを舐めると、やはり顔を枕に押し付けるしかできず、ぎゅうぅ、と爪を布団に食い込ませます。
 ワタルさまが、そ、と手を重ねます。

『あんまり傷を増やさないでくれよ』
『だ、れが』
『昨日はやられてしまったからね。でもな、』

 ワタルさまがそう言って自分の鼻をトントン、と指でつつきます。よく見れば、ワタルさまの鼻には些細ですが皮膚がめくれたような傷がついていました。

『傷を増やすなら、この身に』

 ワタルさまがお手を離します。密着した肌。はだけた背骨にはしっとりと汗が滲んでました。ふたりとも、すっかりびっしょりで。

『……ん、んッぁ、……あつ、……ぃ、よ』

 ツワブキさまがそう言うと、ワタルさまは身を起こし、汗でほぐれた前髪をかきあげると、

『そうだね。あったかいよなあ。……たまらなく、な』

 爪を立てて高く持ち上げた腰に。

『ッ……ぁ……ゥ゛〜〜ッッ!!』 

 打ちつけて穿つ音は、果肉を抉る音に。大変似ていました。
 あぁ。
 あぁ……、これは。なんという光景なのでしょう。
 月明かりだけでは頼りない。霧がかかったような薄暗さでは、はやくはやくと心が駆り立てましょうが、それとは裏腹に、なにかおぞましいものを見ているやましさもありまして。
 二人分の肉体が横にも縦にも揺れて、揺さぶって、布ズレの音と、雪の舞う音しか聞こえないほどの静寂な空間。
 その八畳ほどの狭いおところからは、雪すべてが溶けてしまうかと思われるほどの、熱気が漏れていました。私は、なんだかクラクラしてしまって。よろよろと、横に倒れました。手の平二つ分だけで上半身を支えます。すっかり、正座でくたびれた足が痺れてしまいまして、目も鼻も熱くてたまらない。泣きそうになってしまいました。
 どうしてでしょう。夢なのでしょう、これは。夢でしたら、なんて無礼で厚かましい女だと思わざるを得ません。
 ツワブキさまの、魅力なのでしょうか。
 それともワタルさまの、おぞましいほどのお力なのでしょうか。
 はたまた両方の──

(だめ)

 かぶりを振ります。耳を塞ぎます。わたしは、もう、戻れないところまで来てしまったのかもしれない。夢なら覚めてくださいまし。もう。十分でしたから。
 襖を閉じようと手を伸ばします。が。
 身体が、動かない。身がすくんでしまったのです。どうしてって。暗闇に、わたしに、目を向ける二つの、黒い瞳。

『ぅ……ぁ、あぅ……ッ……あ、ぅ、ッ』

 ツワブキさまのお声が遠ざかっていく。甘いお香の香りがツンッ、と鼻を刺激して。その煙の先。
 瞳孔が切れ長に伸びてしまっているのは、まさに、暗い室内でよく獲物を捉えようと獣が集光する習性を思い出しました。
 口を押えます。声にならない悲鳴を出さないために。
 襖の隙間から、見てしまった。眼光の鋭い、瞳は。

「…………ッ───ぁ」

 にこ、と。笑って、しー……と、指を口の前で立てた。口が描いた言葉の形は。まるでいたずらっ子に、ダメだよ、と諌めるように。

──きみは

 ゆっくりと、細められた瞳孔は、怪しく光ります。まるで、正体を晒して、人間の皮が剥がれてしまったような。

──何もみてないね

 いいね。
 返事を待たずに、ワタル様は襖に手を伸ばすと、そ、っと閉めなさりました。閉めなさった、はず、だった。はず、だとしか根拠がなかったのは。それは、私の。
 私の。そこからの、記憶は、もう。