静けさに満ちた部屋。薄暗く染まった青白い部屋に、滑らかに落ち照らす光は頼りなさげな月光だけ。それでも、相手の揺れる赤い髪と肌のほてりを感じるのに十分だった。
粘り気がある水音が、鼓膜をいじめてくる。
「ぅ、ん……」
ぬち、と、ローションがしっかりと温められて絡められた指が一本、おしりの割れ目を伝ってゆっくりとぼくの中に入ってきた。関節が曲がり、イイところをまさぐってくる。びくびくと、その度に背筋が震えた。
その動きに、ふ、っと、頭をよぎったのは彼の喉の質感と、あと食器を掴む品のある、指。
(ワタルってさ)
あぁ、なんで、こんなときに思い出すかな。ボクの、思考回路は。
ぐ、っと目を瞑った。でも逆効果。まぶたの裏は鮮明にさっきのやり取りを映し出す。
二本目が入る。ぐり、と、爪を立てないように腹で押し潰した感触に、叫びそうになったのを耐える。
「ぅ、うっ……」
今度はボクの浴衣を着付けるときのピン、と張った力強い手馴れた指の動きを思い出した。襟を正すときの、ボクとは違う男の角張った手が。指が。
(所作が、とっても綺麗だよね)
思い出してしまう。ワタルの、綺麗な、品のある指の。
(品があるっていうか)
すごく、丁寧で。それは、ボクの身体から脳の隅々まで教えこまれていたことだって。思い出した。
特に、指の、動かし方は。
「……考え事をしている余裕はあるようだな」
「え、ち、がッ……!!」
ずぷりと三本の指を一気に抜かれる。ぼんやりと天井を眺めていたボクの視界に映ったのは、ワタルがボクの左肩を掴んだ手。ぬち、と、ローションで濡れた感触がした。
嘘、でしょ。まさか。
「ま、って、ワタル」
まずい、体勢が変えられる、ということは。
予想通りくるりと視界が回る。うつ伏せに倒され、ボクは枕に顔をぶつける勢いで沈んだ。足をばたつかせて逃げようとしたのを許さないように、ワタルがすかさず、押さえつける。太ももの上にのりあげ、暴れるボクを固定するがっしりとした脚。
大きな両手は腰を掴み、高く引っ張る。すごい、恥ずかしくてみっともない格好。ボクは腰だけを突き出し、彼は獲物を捕食する間際だった。
バサリと、浴衣を剥がされる音が下半身の方から聞こえてかァ、っと熱くなった。
そして今までの記憶が怒涛にフラッシュバックした。太ももを掴む恐ろしい力、後ろから勢いよく打ち付けられる、快感の波。
さぁ、と、血の気が引けた。悲鳴をあげる。
「ま、っ、て……はいら、なッ!! 、む、ィッ!!」
ゴリゴリ、って音が聞こえた。
「ぅッ──ガッ!」
仰け反ったお腹からすべてを、嘔吐いた。雄叫びのような喘ぎは自分でもよくわからない叫びでただひたすら脳天を抉ったように視界がチカチカした。めまいがする。
結腸の先端、おくのおくまで、槍が突き刺さったかのような刺激。身体がのけぞって、のけぞって、背骨がここまでか、ってぐらい曲がった。ケモノが唸り声をあげるような体勢で自然と声がうわずった。唾液がこぼれる。ぼたぼたと、布団にしみを作る。
だけど、ワタルは容赦がない。
浴衣に爪を立てて腰を強く掴み、肌に肌を打ち付けるように揺らした。何度も何度も、勢いよく出し入れを繰り返せば、奥まで彼の固い熱が刺さって、えぐれて、そのたびにぼくは喘ぐしかない。
ふんばろうと爪を立てて布団にしがみついても、すっかりシワだらけ。どんどん、位置が上へ上へ、ずれていく。気にする余裕は、二人にはない。
ゆるゆると立ち上がったぼくの性器が布団にごすごす、と擦れてカウパーがぐちょぐちょにした。
ほんとうに、このねつが、きもちよくて、きもちよくて、
「ァ、あぁ……、ッ……!」
たまらない。
「……分かるか、ダイゴ」
「ひ、ぃっ……ァッ!」
お腹に触れていた手が下から掬うように押される。抉られるように硬い感触が胃を圧迫するような苦しさにえずいた。
「ココだ、ここに、……」
トン、トン、と言葉のリズムに合わせるように何度も押されてあ、アッ、と、途切れた呼吸が漏れてしまう。こえが、こえじゃなくなって、しまう。
「……気持ちいいだろう?」
ぐり、と、ワタルの性器が刺さっている位置を押される。胃が圧迫して、呼吸が出来なくなった。
「ッ〜〜〜ッ!!」
トドメに、お腹を圧迫されたまま力強く奥まで穿つ快感は、それはもう。
死んでしまうかと思ったぐらい気持ちよかった。
耐えきれなくて、熱いものが達すれば、勢いよく布団を汚してしまった。
頭から脱力して、抱きついていた浅い枕に沈んだ。ワタルが腰とお腹を支えたままなので、自然と高くおしりを突き上げる態勢が恥ずかしくないのか、と言われればそうではないけど、もうへとへとだった。
ちゅ、と。腰からくすぐったい柔らかさを感じた。振り返ると、汗でびっちょり熟れていた唇が、ボクの腰をいたわるように優しくキスをしていた。ワタルがうっすらと目を開けると、ボクに視線を向ける。
優しく愛おしげに笑った額は、前髪が汗のせいで張り付いていた。
きゅ、と胸が愛おしさで苦しくなる。それほど夢中になっていたってことだ。きみも、ぼくも。
「わた、る……」
無性にその唇に噛みつきたくて、縋るように身をよじった。
でも、ワタルが待って、というように口を動かす。
「ん……ぅ、」
ずろろ、と、身体の中に収まっていた大きなものが一気に消えていく虚しさと、気持ちよさがしとどに襲ってきた。やば、い、ひっぱられそう。
ワタルが僕の身体を回して、お互い向き合うようにする。
ちゅ、と。目当てのものをくれる。そのまま舌を絡めて、少しお互いの呼吸を整えた。
「っ……、」
でも、
「わた……ぅ、ん、!」
ムズムズする。身体が、まだ、欲してるのが分かった。
「どうした」
「……りない」
ん、とキスしてくる。きもちいいな。
「たりない、よ。わたる」
「わかってる。こっち向いて」
こくり、と。うなずいた。おずおずと、身体をひっくり返すと、ローションとぼくの精液がお尻を伝って布団へ零れ流れ落ちる。すごく、はしたなくて、そっと浴衣で隠した。でも、ワタルが納得いかないようにすぐさま股をやんわりと開いた。
「……あんま見ないで」
「暗いから、もったいない」
「さっきからもったいないって、なんのこと……」
顔を手で抑える。
「もったいないんだよ。なかなかないから」
「……?」
「……」
ワタルが額の汗を拭ったのを指の隙間から見えた。その際に、はら、と前髪がほどけて、ドキッとした。
腰を抱えて、枕を間に入れてくれる。やさしいな。そんなにヤワじゃないのに。
「女扱いしなくていいんだよ」
「してない」
ワタルが、眼光を鋭くして言う。
「してたら、……とっくにきみは……」
「え……なに。わっ」
ゆるゆる開いていた股をさらに広げられると、いよいよ浴衣が形をぐずぐずにさせた。
枕の弾力から不安定になった足がワタルの背中にぶつかるのが嫌で、こういうときもっと柔らかい身体ならな、って心底思う。
「挿れるよ」
「ンンッ……」
縋るものを求めて、ワタルの肩に手を伸ばした。けど、浴衣を掴んだ手は思うように力が入らず、ズリ、と思いっきりはだけた。ワタルのたくましい肩と、胸筋が目の前に広がって目がチカチカ眩しい。汗が、ぽた、と落ちて瞬きをした。まず、い。
「あっ、ごめ……」
「ッ……」
咄嗟に謝っても、タイミングが悪かった。ワタルも余裕がもうないみたいで。
「ひ、ぃ゛、ッ〜〜ッ!!」
ゆっくりと、前立腺をえぐるように挿入された。
着崩れを気にせずに、腰を思いっきり打ち付けてきて、そのたびに足が、ぴん、と天井の方に伸ばして痙攣した。
「ッ……あ、ぁッ」
ワタルが出し入れする度に、自分の中で快感の波が泡立つ。きゅう、っと締め付けると、中に収まっている血の熱さを感じた。ドクドクと、脈を打ってるのは、ぼくのほうなの、それとも、きみ、なの。
ゆっくりゆっくり、奥の方まで入れて、出して、そうする度にいやらしい水音と、皮膚がぶつかり合う音が鼓膜をいじめた。
かと思えば急に穴にカリが引っかかるギリギリまで出して、いっきに奥に突いて結腸にぶつかったゴリゴリ、という音が聞こえたときは本当に死んじゃうかな、って涙がこぼれて。
「ダイゴ」
それに気づいてワタルがまぶたの下にキスをするから、もう無性に愛しくて、卑怯な男だ。
ずる、と大きくて重いからすぐに分かる。ギリギリまで出されて、浅い抜き差しでいじめられた時は、もどかしくて、自分からワタルの方へ腰を揺らして、すりつけて、押し付けた。
「ッ……!!」
そしてついに、とんとんと、腰の奥から脳天を貫くような痺れが近づいてきた。自分の性器を覗くと、ゆるゆると立ち上がっていて、とろ、とカウパーが溢れ太ももを伝うぬるっけに泣きそうになった。
ガクガクと、足が震えて、そろそろ、やばい。
「イッ、……ッ、うァッッ!」
暴れる両手をケガしないように、なのか、な。布団に縫い付けて、ワタルが囁いた。顔が近い。
「イッて、ダイゴ」
声は、小さく、とてもひくい。むりだ。
「ッ! ぁ、ア゛ーー……ッ!」
びゅ、と。溜まりに溜まった性欲が勢いよく吹き出た。
かろうじてまだ腰にひっかかっていた浴衣と、その隙間からはみ出ていたお腹が精液でべっとり濡れる。
びくびくと、痙攣が止まらない。ワタルから解放されたくて、身をよじった。でも、
「ッ!?」
がし、と、逃がさないように腰を掴まれる。そして、
「ヒッ」
ゆるゆると、まだ反応がいい性器をやんわりと手で包んできた。次に何をされるか、瞬時で悟れるほど、ボクたちは回数は重ねてきた。や、だ。
「い、やだ」
じたばたと足をばたつかせる。大きな背中に踵をぶつけるけど、ワタルがギュッとカリを手のひらで潰してきた。身体がはねる。軽く脅迫だ。
「まだ、気持ちよくなれるな」
「やだ、ヤダッ!」
ブンブンと髪をゆさぶって否定した。もう顔はグズグズだ。ワタルがそんな様子を見下ろして、にっこり笑う。ぐり、と、亀頭を今度は潰してきた。身体がいやでもはねる。
「はなしてッッ!」
ガンッ、と横の何かを蹴った。いつのまに用意していたペットボトルの水とグラスだった。でもそんなことはどうでもよかった。しゃがれた声で抵抗する。体力はもうすでに瀕死状態だ。
尿道に繋がるちいさな穴が広げられる不安と、とめどない快感が腰からせり上がる恐怖は、何度だって慣れない。だめ、やだ、こわい。アレが、全身を飲み込んでくる。
ぐつっと、分厚い指が亀頭にめりこませ、爪でガリッと引っ掻く。傷をつけないギリギリのラインは拷問に等しい。ギャッと潰れた声を出す。
「まっ、ヤッ、わたる、だめっ、とめて、やだ、やだっ! も、もれぢゃ、あっ、アッ!」
「大丈夫、信じて」
「そ、うい、ぅもんだいじゃ、アッ、だ、だめっ、はなし、てッ!!」
涙が溢れてきた。ぽろぽろと落ちていくものを、ワタルが舌で拾う。
おかしくなる、おかしくなる、つらい、こわい。やだ。でも、
「たまらないよ、ダイゴ」
いつまでだって味わっていたい支離滅裂な、この快感にやみつきになっていることは、ワタルは分かっている。
きみの目は、すっかり加虐に満ちていたから。
「んぅッ……ッ! ァ〜〜〜──ッ!!」
ビビビ、と、全身に電流が走ったような強い刺激。おもわず身体がぐ、っと仰け反って痙攣した。口がしまらなくて、唾液はダラダラ。はたから見たらなんてだらしないんだろうか。
ぷしゃ、ぷしゃりと、水を吹くように性器から出たものはゆるゆると浴衣を濡らした。ぼくのも、ワタルのも、すっかりぐっしょりだった。
数時間前まで、あんなに綺麗に着こなしていたのに、すっかり娼婦みたいにふしだらに気崩れている。
目がチカッチカする。朧気な部屋の明るさでさえも刺激が強く、焦点が定まらない。右、左、ピントがぼやけてふらふらした。
「ぅんぅ……ッ」
性器が抜かれると、ワタルはゴムを丁寧に外していた。脱力して、ストン、と腰が抜けるとワタルがすかさず手で支えてくれた。まだ身体がビリビリする。
「……喋れるかい、」
ちょ……っと、こしにちからが、はいらない、かな。
ハクハクと、声にならない声で伝える。ワタルがうなづくとピタ、と汗がボクの頬に落ちる。たった一滴でもかなりあつい。
ぼやけた視界に自分の心臓のドクン、ドクン、という音と、きみの姿だけがはっきり浮かび上がる。
「水、欲しいよな」
コクコクとうなづいた。ワタルがぼくの喉の骨にそっとキスをする。転がってしまったペットボトルの水に手を伸ばした。
ボクはその間息を整えていると、突然きゅう、と、声が聞こえて二人してそちらを向いた。
「ミニリュウ」
きゅるる、と鳴いて、ワタルの指に擦り寄る。目がしょぼしょぼで、かなり眠そうだ。
ボクが渡された水を飲んでいる姿に、ちょうだい、とすりすりしてきたので手に移して分けてあげた。
「……すっかりのぼせたね」
カトン、という音が隣で聞こえた。たぶん、寝かせるためにモンスターボールに入れてあげたんだろう。ボクは額の汗を拭おうと反対側を向いてタオルを手繰り寄せた。
「……そういえば、」
ワタルが思い出したかのようになにか呟いた。すると、
「え、わっ、……なにっ、?」
ぐい、っと強い力で引かれ、視界が回る。
「せっかくきみが用意してくれたとっておきの部屋だ」
さぁ、と血の気が引けた。嫌な予感がする。
「はいるの?」
「あぁ」
「……温泉に?」
ガラ、とガラスドアを開けた。夜の冷たい空気に身震いする。
「あぁ」
ワタルの発言にも、身震いする。
「わ、ワタルだけで入りなよ。ぼくは、その、眠いし明日の朝にでも」
「そんなつれないことを言うなんて、らしくないな」
「わっ、」
浴衣を剥がされて、指輪は抜かれ、抱き抱えられる。まって、いちおう大の男であるのに、そんな簡単に抱えられるとぼくの尊厳が傷つくんだけど。
いや、それどころではなくて。
「入るよ」
「ッ、」
待っての言葉は間に合わずに、足をとぷんと滑らせた。二人まとめて入れば、石で固められた浴槽から一気にお湯が溢れてしまう。ザーー、という音とボクがわめく声が夜中に響いた。
「ッッ!!!」
あつい。
「ぁ、」
おゆが。はいってくる。あついはだを。ゆでらせるいきおいに。
「おいで、ダイゴ」
こわくてぼくは、ワタルにしがみついた。ぎゅーっと、締め付けるように。
「わ、わた……」
「手を回して、おれに乗っていいから」
ワタルの太ももに身体をのりあげた。ごつん、と硬いものを感じてうそでしょ、ってなった。
「ぁ、あつぃ……っ」
「うん?」
ひぃひぃと、呼吸を整えるたびにお湯に沈んでくらくらした。
「あつい、よ、わたる……」
「そうだね、おれは、あったかい、かな」
ちゅ、ちゅ、と、うなじと頬に何度もキスしてくる。なんでこんなによゆうなんだ。この男は。
「なぁ、ダイゴ」
つん、とぼくのおしりにそそりたつなにかをおしつけてくる。
「……いれて、いいか」
そのままで。と言う言葉で分かった。
「な、生で、ってこと?」
「後処理はちゃんとする」
ちゅ、とうなじにキスされる。
「だ、だ、め!!」
睡魔と体力の限界でぼくはもういろいろとダメだったけど、もしここで寝落ちしたら大変なことになることにくらくらする頭をたたき起こした。
「大丈夫。ちゃんと綺麗にするから」
「そ、うじゃなくて」
「いいね」
「え、ま、」
つぷ、と。はいってきた感触はさっきとは比べものにならないぐらい、熱かった。
「ッ〜〜〜ぁ゛ッ!」
「っ……」
「ちょ、っと待っ…………やっ」
腰が抜けて、身がお湯に溺れそうになった。
「ぷ、ぷっはっ!」
顎までお湯に沈んで、軽くパニックになってしまう。
「ぶっ……ぅぶっ」
「ダイゴ」
「ぅ、んぐっ」
「落ち着いて」
浮かせて、と言われて、ワタルに合わせて、腰を浮かせるけど、ぐる、んと中をかき乱し、肉を穿つものが前立腺を撫でる快感に力がゆるゆる抜けて落ちる。
浮力はあっても、体重がかかって落ちる衝撃に奥まで貫かれると、そのたびに意識が飛びそうになった。
「上手だ」
今度はワタルの番。ゴン、ゴン、って、下から奥まで穿つ力強さに抗える術なんてなく。その度に、お湯が一緒に流れ込んで咳をした。でも、咳をすればお湯がはねて口に入ってくる。それを塞ごうとワタルがすかさず唇を重ねれば、もう、わけがわからなくなってきた。
「う、うぅぅう〜〜〜ッ」
「……ダイゴ」
「ま、まって、」
「またない」
「ヒッ、ぅ、うぁっ……!」
「委ねて」
俺に、と言った声がかき消される。股がめりめりと裂けてしまうかと怖くなった。
ひどいひどいと喚くと、ワタルがお湯と一緒にぼくにキスをする。ずるいずるいと喚けば、ポロポロと自然に落ちてきた涙を舐め上げてきた。
でも、
「ダイゴ……」
はぁ、と息を漏らした。眉間をひそませて、ぼくの肩にうずめた顔と、ぐしゃりとした前髪が、君らしくなくて、きみらしく、なくて?
あれってなった。ワタルの次の言葉が、信じられないものだった。
「きもち、いいな」
ぴし、となった。もしかして、これは。
ムクムクと胸のなかで膨らんだ感情は、歓喜だった。ぼくが、求めていたものが今そこに、見つかった気がして。
「わ、わた……」
「ん……?」
ちゅ、とキスしてくる。やっぱりそうだ。
「お、おねが、……ん、んッ!」
「なんだい」
息を整えながら、手を伸ばす。彼の頬に縋るようにうなじから抱き寄せた。ぎゅっとして、その耳元で囁いた。聞き逃させは、しない。
「がまん、しないで」
「……!」
とどめの一撃に、もう一言を添える。
「すきにしてよ」
ぼくを、すきなだけ。
「ッ……きみ、ってやつは」
「………ぅ、アッ」
遠慮しないで欲しい。だって、せっかくのおやすみなのだから。
ボクを気遣わなくていい。きみの優しさはとても嬉しいけど、それでもきみがボクを頼りにし、甘えたりする姿を望むことは。
贅沢なのだろうか。
「……ダイゴ──」
熱いものがボクの中に流れてきた。おゆ、……お湯か。いや、お湯にしては、ドロっとしているから、きっと、って分かってようやく安心した。
ワタルの紡いだ言葉が途切れる。望んでいた言葉の正体を掴む前に。その前に、ボクの意識がもたなかった。
溺れ落ちていく意識は、ゆっくりと深い眠気に攫われた。
