ダイゴにお茶をついで渡した。ありがとう、って言いながら、受け取るのを見届けながら、俺もいただきます、と手を合わせる。
「ワタルってさ、」
ごくん、と飲み込み喉仏が上下に動いた。もらったお茶を手にとってほっこりとしながらダイゴは話し始める。
「ほんと、所作が綺麗だよね」
「そうかな」
「うん、特に手の動かし方。品があるっていうか」
じ、と。目を大きくさせて瞬きもしないで俺の茶碗を持つ手を見つめてくる。
「そういうところ、好きだな」
「そんなに見られると、恥ずかしいな」
「……さっきのボクの気持ちがわかった?」
ダイゴがによりと笑う。多分、鏡のこと。
「さてね」
お茶に手を伸ばす。温かい緑茶からは湯気がたちのぼっていて、向かい側に座るきみの顔を曇らした。
ゆらめいて、俺はそれをゆっくりと飲み込む。 奥ゆかしくて、好みの味だった。
食後にはお酒も用意されていた。露天風呂に入る予定が、横を見ればまだミニリュウが一人で楽しんでいるのと、ダイゴが酒に興味を移したこともあって晩酌をすることにした。
二人分のおちょこについで、軽くお互いに上にあげ、乾杯らしいものをした。
くい、っと飲み込む。だいぶ上物の豊饒な香りは、俺もきみも、気分をよくするにちょうどいい。
気づけば、みるみると日本酒の中身は消えていた。
多分、ダイゴの方が調子にのっていて、いつもよりハイペース。
ゆらゆらと揺れた頭がぐったりと、テーブルにしなってしまったときには、流石に潮時だと思った。
布団の用意をしようと、立ち上がるとめまいでふらつく。テーブルを支えに、少しよろめいてしまった。
俺も相当だったらしい。
眉間を抑えて、よし、と律し、ダイゴに自分の羽織を被せて襖で仕切られた寝室用の和室へと移動する。
くたびれた彼の面倒を早くしたくて、サッと敷いた。
「ダイゴ、布団を敷いたよ。きみは……」
テーブルの方に振り返って姿を探すが、
「……ダイゴ?」
ダイゴはいつの間にか俺の方に近づいていた。ちょうど俺の膝元、二つの部屋を区切る襖に正座でもたれかかっていて、彼の頭のてっぺんだけが見えた。
酒にやられたのか心配になり、俺はしゃがんで彼の顔を覗き込む。
「ふふふふ……」
前髪がふすりと彼の表情を隠してしまった。
何が機嫌をよくしたのか、口につけたお酒がそうとうお気に召したのか、白い柔肌を少し火照らせているのが、彼のうなじと耳の皮膚でわかる。 相変わらず表情は見えない。
頬に手を伸ばして、手繰り寄せようとする、が、
「きみ、大丈夫か、──っ!」
ドン、と、押される。
バランスが崩れて、ダイゴも力が上手く入らないのかそのまま二人して後ろに控えていた布団になだれ込んだ。
怪我してないか焦って、上半身だけ起き上がると急な冷たい感触が刺さってまぶたが震えた。
「ワタル」
冷たさの正体は彼の指輪だった。金属の冷たさとは対照的に、彼の皮膚は少し熱くなっていた。
うなじと喉にそ、っと撫で回すように両手を回し、みだらにも足を少し広げて膝の上に跨っていた。頬が真っ赤に染まっていた。月明かりがやんわり照らし、なかなか目に毒な光景。
くらっとした。
「……ダイゴ」
紺色の浴衣のかっぱりと、開いてしまった裾から二つの腿がはみ出ていて、それもまた細く、白く、月明かりが浮き彫りにさせた。据え膳にして、ひどい有り様だ。息が興奮して熱くなってないと、いいが。
こちらもお酒が少々入っている状況、まぁまぁ自信のある理性も、この攻撃力。
自信が、揺らぐ。
「ご機嫌だね」
そうなる前に、余裕だけは残すため、にっこりと笑って、肩に置かれた手を触った。するりと撫で回して、指輪に触れる。指輪も、俺の温度で次第にぬるくなっていく。
「もちろん」
返した言葉と一緒に、ダイゴは俺を押し倒そうと、手にぐ、と力を入れてきた。
「きみは?」
させるか。
俺も負けじと、その両手を奪う。ダイゴの俺を押し倒そうとする力をそのまま利用して、体を翻し、ひっくり返す勢いのまま布団へほおり投げる。
「……もちろん」
静かな部屋に、ドサ、という音が大きく聞こえる。
すぐに、彼の身体に覆いかぶさって、
「きみと同じさ」
そう言って笑う。対して視線先、すっかり期待している目が、誘うように細くなった。
布ズレの音が甘美に変われば、きみの唇は熟れていた。すかさず噛み付いて、布団に押し付ける。
逃がすものか。
酒に溺れて、湯に浸かったような気分に上機嫌で盛りあがった衝動の矛先が、自分の愛する男に向けられるのはごくごく当たり前のことじゃないかな。ぼくが、おかしいのか、な。
気づけば、気持ちよかった。きみに触れること、きみに触れられること。きみの声、言葉、見つめること、見つめられること。すべてが、きもちよくて、最高だ。
首筋を辿るようにキスを重ねてくる。くすぐったくて、身じろいで手を動かそうとすると、大きな手が上からそっと布団に縫い付いてきた。ぼくの指一本一本に、ぼくとは明らかに違う、太くて骨が角張った指を割入れられて、すごい力で押さえつけられる。
布団に締め付けるかのようで。
まるで、逃がさない、と脅すかのように。
でも、傷つけまいと優しい手つきだった。
すー、と、首元で繰り返される細くて低い吐息一つ一つにドキドキしてしまう。
「脈が熱い」
バレた。
「……っ、いつぶりだと思ってるの」
「……3ヶ月」
十分な空白だった。ぼくたちが、性欲に雪崩てしまうのに。
「と、4日」
「……よく覚えてるね」
「当たり前さ」
解放された指をうなじに絡める。触った温度は少し火照っているのが気持ちよくて嬉しくなった。
指輪の冷たさを感じたのか、彼はぴくり、と眉を動かした。でも余裕そうに笑って言う。
「おれだって、待ちかねていたから」
「……ずるいなぁ、その言葉」
「脱がすよ」
するりと、肩に引っかかっていた浴衣がはだける。
「ぁっ……」
指の関節に纏う、固くて熱い皮膚を直接感じ、それすらも久々で背骨に通ってる脊髄にゾクゾクと電流が走っていく。思わず目を瞑って快感に委ねる。
「……?」
でも、一向に浴衣を剥がすことなく止まっている様子に不思議に思ったボクは目をうっすら開いた。
「ワタル……?」
なにか、思案しているかのようにじ、っとボクを見下ろしていた。窓から差し込む光の向きが、ちょうど逆光もあってちょっと怖い。
「……いや、もったいないかな」
「え、なに……が、」
「せっかくだから、見て楽しみたい」
気持ち程度にズリ下げられた浴衣は、胸元がぱっかり空いた状態で帯も腰紐も抜かれることなくそのままにされる。はたから見たら、とてもだらしない。
「ん……ッ」
ちゅ、と、ワタルがボクの胸に顔を埋めるとゆっくりと舌を使ってキスをした。それだけですっかりほててしまった肌はさらに熱さをまし、期待してしまう。
「ん、ん……っ、ぁ……」
恥ずかしくて、でも、気になって、目線を下に動かすと、ワタルが優しくボクの熟れた乳首にそっと舌を這わせ、下から上へゆっくりと舐め上げている最中だった。ダイレクトな刺激と光景が釘付けになってしまった。そして、遅れて、
「ヒッ!!」
どくん、と腰がはねた。
ガブ、とワタルが乳首を甘く噛んできた。ほんの少しの刺激でもボクにとっては強烈極まりない。刺激を和らげるようにまた舐めあげられると、腰からゆるゆると力が抜けていく。
乳首はすっかり真っ赤に熟れ、ひくひくと震えていた。もてあそばれている。
「静かに」
「んッ……」
唇を唇で塞いでくる。
「っ……は」
目を開くと、少しぼやけていたけど君の様子ぐらいは分かる。雄臭い匂いと表情は隠しきれないようで伝わってくる。きゅぅ、と腰あたりが寂しくなって、ムズムズした。なにもかも、痺れさせる視線。性欲に溺れ、ボクを抱き潰してやろうという鋭い目。舌なめずりは、ボクの唾液ごと飲み込んだ。
「甘いね」
もう、できあがっていた。
