きみの手のまま✱r18 - 2/3

 ゆるめてみたいと思う。
 ひらいてみたいと思う。
 固く紐で結ばれてしまった奥底を、他の誰でもない自分が、引き出したいと思う。
 底なしの優しさと強さの深淵の先に、ずっと、触れてみたい。
 そこに、きみのすべてがあるのなら。
 全部、この手で引きずりだしたい。

 

 きみの手のまま

 

 ベッドに横たわって天井を見上げるたびにいつも思うんだけど、そういう気分やムードで盛り上がることがないぐらい淡白だな、とボクらの関係の象徴みたいだ。
 ぼー、と見上げていたクリーム色の天井が薄暗くなった。たぶん、彼が照明をいじって明るさを落としたのだろう。それでも、色素の薄い視界からだと、光を集める力が強い分、彼に比べればいささかまだ見える。
 ふ、と、視界に赤い血のような色が入って、布ズレの音が聞こえた。シーツは下に落としてしまったから、今ベッドにあるのは、枕とボクの身体ひとつだけ。
 ギシ、とスプリングが悲鳴をあげて、彼の体温が侵入してくる。

「……見える?」
「かすかに」
「じゃあ、……まずはキスから」
「ん……」

 茹だる熱。揺らめく視界。さっきから気になっていることがないといえばないけど、それでも、彼とのセックスはすごく気持ちいいし、文句のひとつもない。でも、いつも以上になにかが、ひっかかったのは、このときには分からなかった。

「ん……ぅ……んッ……」

 縋るように、彼の唇を求めた。舌を絡めて、うなじには手も絡めて。もっと、近づきたくて、一緒になりたくて。
 赤ん坊が乳首をねだるようだ。あたたかくて、優しくて、本当に、気持ちよくて安心する。
 けど。

「……ワタル?」

 口を離して、首を傾げた。ワタルがあまり集中していないのがわかって。
 案の定ボクをじ、っと見下ろしていた目つきは鋭く、眉間にもシワが寄っていた。

「それは、無意識でやってるのか」
「え」

 なにか、不満でもあったのだろうか。まだキスしかしてないというのに。
 ワタルは顔をしかめるだけで、何も言わなかった。手が、する、と、ワイシャツのなかをまさぐってくる。皮膚一枚しか隔たりがない接触に、自然と腰が揺れた。

「ぁ……ッ……」

 優しい触り方だ。皮膚を破かないように撫でたり、爪でひっかいたり。
 お腹の筋から脇腹へ。脇腹の肉からそしてやがて上へ上へ、熱が移動してくる。ぴく、と震えた。

「……んぐッ……」

 爪は、胸元へ。円を描くようになぞる指先は、焦らしながら乳首を掠った。カリ、と引っかかれて腰元が熱くなる。
 期待が膨らむ。
 声を出したくなくて、唇を噛むとワタルが気づいてキスをしてくる。嬉しくて、ボクは受け入れて舌を絡めた。
 数秒。角度を変えて、呼吸を挟みもう数秒。

「ぁッ……は……ぅ、ん」

 カリ、カリ、と摘まれて膨らんだ乳首の先を、二回爪で引っかかれる。声をこらえても、足の指を丸めて、ぎに、とこらえても、反応する身体は正直。時間と回数を重ねて育て上げられた快感を拾うポイントは、素直になってしまう。

「膨らんだ」
「そ、ういうの、いちいち言わないで」
「顔は、真っ赤だ」 
「ッ……まえから、思っていたんだけど……きみって……ぅぁ……ッ」

 言葉を許さじ。
 ちゅる、と、唇から離された舌が、顎筋から首を伝って鎖骨へ、そしてむき出しの胸元へ。
 ちゅうちゅう音を立てて、ワタルは思いっきり乳首を吸った。がぶ、と噛まれれば嫌でも反応する。きもちいい、って。

「あ、……ふ、……ッ……」

 腰が、期待するように揺れて。胸は、熱くて。つまんだり、噛んだり、もんだり、舌で転がすように舐められたり、吸われたり。さまざまなことをされるたびにいちいち腰が跳ねてしまう。単純な男だと思われてないといいな。それだけは嫌だ。
 息が上がっていく。腰も自然と反り上がる。いつも不思議に思うんだけど、ワタルは感覚が鋭い。ボクの異変に気づくと、それをなだめるように乳首を分厚い舌で優しく転がして、甘い痺れにゆるゆると腰はシーツに沈む。
 すっかり教えこまれている。頭が上がらない。
 ワタルが胸元に埋めた顔をこちらに向けて、

「きもちいいなら、きもちいいって言ってくれたら嬉しいな」
「ッ……」
「唇は噛まないで。爪も、握らずに。おれの背中にしがみついていいから」

 そうして、シーツに張りつき、拳を握っていたボクの手を取ると、ワタルは自分の背中に抱きつくよう誘導する。
 前、彼の背中に線を八本描くように赤い痕をつけてしまったことが怖くて、それ以来抱きつくことをやめたボクの気持ちが、そうそうにバレていた。
 受け入れられる側の方が大変なのだから、と以前困ったように笑ってそういったきみの顔が忘れられない。

「んッ……!」

 じゅ、と、放ったらかしにされていた乳首をまた愛でられる。強く吸って、舌で転がして、すっかり腫れて勃ちあがってしまったそれが一瞬、暗闇に赤く映るのが恥ずかしくて、熱が蒸発した。
 見れるわけない。

「綺麗だ」

 きみが愛おしそうに、声を投げ下ろすからますます沸騰しそうになる。

「み、ないで」
「きみの、皮膚も、肉も、声も、すべて」

 胸から鎖骨へ、鎖骨から、首筋へ。じゅ、と、灰が落とされたような熱い痛みが走って身体が跳ねる。

「ん、んぁ……ッ……」
「のみこみたくなるほど、綺麗で」

 ワタルがキスマークをつけてくるとき、いつも思うことがある。やたらと、鎖骨から首にかけてが多い気がして。
 どうして、だろう。いつも聞こうとは思ってはいるけど、セックスに熱中すると、忘れてしまう。

「……それなのに」

 ワタルの声のトーンが落ち込んだ。理由を聞く前に、ガブ、っ、と鎖骨を噛みつかれる。牙は皮膚を引き裂き、肉をくい込んで痛い。でも、そのあと血を舐めてくれる優しさは、彼らしいな、っていつも思う。
 けど。

「ふッ……う、ん、……?」

 ベッドが、急に軽くなる。ボクの視界も、沈んでいた影が消えてちょっとだけ明るくなる。
 あれ、って思った。ポー、と惚けた視界で彼の姿を探ると、いつのまにかベッド横に座って、脱ぎ捨てた服に手を伸ばしていた。

「……やっぱり」

 そしてたった一言。

「やめよう」