トクサネシティで軽食を食べる二人
(第5話没シーン)
潮の音がゆったりと流れる窓辺で、俺とダイゴはテーブルを挟んで座っていた。カイナシティとよく似ている景色だが、あそこに比べてトクサネの朝はあまりにも静かだ。
俺もダイゴも何も喋らずにいたから、余計に静かだった。ダイゴは、窓の外の風景を愛おしげに見つめている。その横顔がどことなく遠く感じて俺は触れようとしなかった。
触れたら溶けてしまいそうだったから。
白い皿二つがテーブルの上に運ばれた。俺は肉で、ダイゴは魚。
そこでようやくダイゴは俺に向き直って話し始める。
「ねぇ、ワタル。ボクが望むきみとの関係って言うのはさ。ごくごく単純でとても分かりやすいことなんだ」
ダイゴはフォークとナイフをまとめて、俺に渡す。話題はさっきのこと。
「きみは難しく考えすぎだと、思う」
自分のものを手に取って捌き始めた手つきは、丁寧で至極慣れていたもの。綺麗に魚はほぐれていく。骨を脇において彼はこっちを見てきた。
「例えば、おいしいご飯が目の前にあったとする。ボクの大好物でもいいな」
声を弾ませて。ソースを絡める。ここからでは影がかかって鈍い茶色に見えた。
「ボクはそれを喜んで食べる。こんな感じで」
ダイゴは一口サイズに切り取った白身魚を美味しそうに食べた。
「これだけのことをね」
「……ちゃんと飲み込んでから話してくれ」
失礼、と言ってダイゴは飲み込んだ。
「つまりね、ボクが求めてるのは」
またフォークとナイフを使って丁寧に身を一口サイズに切り分けた。さっきよりも少し大きめに。
「あぁ、きみとこんなにおいしいものを一緒に食べれたらな、って思うんだよ」
この意味が分かる?と言った言葉に、俺は肉を切り分けていた手を止めた。
「……さてね」
ダイゴはにこりと笑った。満足したのか、どうなのか。
「ワタル」
名前を呼ばれて手を動かそうとしたのをもう一度止める。
「食べて」
言われた言葉に躊躇った。フォークで差し出してきた白身魚。俺は、それをじ、と見る。切り分けた分が少し大きかったのは、俺に食べさせるつもりだったらしい。
「……食べて」
拒否権はなかった。たら、と白い身に窓から差し込んだ光があたってオレンジ色のソースが垂れていく。芳醇な香り。
ソースが落ちる前に差し出してきたそれを飲み込んだ。ほぐれた身は柔らかく、酸味の効いた柑橘のソースが鼻腔をくすぐった。
ダイゴは、相も変わらず笑っていた。
「きみは、やっぱりおちゃめな人だな、って思うよ」
「俺から見たらきみの方がお茶目だし、いたずらっ子だと思うけどね」
「そうかな。ワタルは……きみが思っているより無邪気だ」
「……ダイゴが初めてだよ。そんなこと言うのは」
俺のことを評価する言葉に、ダイゴが並べた言葉は今まで無かった。彼の目に映る俺の姿というのは、どうやら普通の人とは違う形をしているらしい。
「きみは、不思議な人だ」
俺がそう言えばダイゴはたまらなく嬉しそうにする。笑って、ん、と小さい口を突き出してきた。
俺は自分用に切り分けた肉を少しだけ小さく切り分け直して、フォークに刺す。ダイゴに食べさせれば、赤い口に吸い込まれていった。
ゆっくり噛み締められて、柔らかい肉はダイゴの身体に消えていく。
くん、と飲み込んで。細くて白い喉の骨が上下に揺れた。
「少しはほぐれたかな?」
おだやかにダイゴはそう言う。彼の目に映る俺の姿は困ったように笑っていた。
