不覚暁に星は輝く【没①】 - 1/2

トクサネシティで軽食を食べる二人 

(第5話没シーン)

 

 潮の音がゆったりと流れる窓辺で、俺とダイゴはテーブルを挟んで座っていた。カイナシティとよく似ている景色だが、あそこに比べてトクサネの朝はあまりにも静かだ。
 俺もダイゴも何も喋らずにいたから、余計に静かだった。ダイゴは、窓の外の風景を愛おしげに見つめている。その横顔がどことなく遠く感じて俺は触れようとしなかった。
 触れたら溶けてしまいそうだったから。
 白い皿二つがテーブルの上に運ばれた。俺は肉で、ダイゴは魚。
 そこでようやくダイゴは俺に向き直って話し始める。

「ねぇ、ワタル。ボクが望むきみとの関係って言うのはさ。ごくごく単純でとても分かりやすいことなんだ」

 ダイゴはフォークとナイフをまとめて、俺に渡す。話題はさっきのこと。

「きみは難しく考えすぎだと、思う」

 自分のものを手に取って捌き始めた手つきは、丁寧で至極慣れていたもの。綺麗に魚はほぐれていく。骨を脇において彼はこっちを見てきた。

「例えば、おいしいご飯が目の前にあったとする。ボクの大好物でもいいな」

 声を弾ませて。ソースを絡める。ここからでは影がかかって鈍い茶色に見えた。

「ボクはそれを喜んで食べる。こんな感じで」

 ダイゴは一口サイズに切り取った白身魚を美味しそうに食べた。

「これだけのことをね」 
「……ちゃんと飲み込んでから話してくれ」

 失礼、と言ってダイゴは飲み込んだ。

「つまりね、ボクが求めてるのは」

 またフォークとナイフを使って丁寧に身を一口サイズに切り分けた。さっきよりも少し大きめに。

「あぁ、きみとこんなにおいしいものを一緒に食べれたらな、って思うんだよ」

 この意味が分かる?と言った言葉に、俺は肉を切り分けていた手を止めた。

「……さてね」

 ダイゴはにこりと笑った。満足したのか、どうなのか。

「ワタル」

 名前を呼ばれて手を動かそうとしたのをもう一度止める。

「食べて」

 言われた言葉に躊躇った。フォークで差し出してきた白身魚。俺は、それをじ、と見る。切り分けた分が少し大きかったのは、俺に食べさせるつもりだったらしい。

「……食べて」

 拒否権はなかった。たら、と白い身に窓から差し込んだ光があたってオレンジ色のソースが垂れていく。芳醇な香り。 
 ソースが落ちる前に差し出してきたそれを飲み込んだ。ほぐれた身は柔らかく、酸味の効いた柑橘のソースが鼻腔をくすぐった。 
 ダイゴは、相も変わらず笑っていた。

「きみは、やっぱりおちゃめな人だな、って思うよ」 
「俺から見たらきみの方がお茶目だし、いたずらっ子だと思うけどね」 
「そうかな。ワタルは……きみが思っているより無邪気だ」 
「……ダイゴが初めてだよ。そんなこと言うのは」

 俺のことを評価する言葉に、ダイゴが並べた言葉は今まで無かった。彼の目に映る俺の姿というのは、どうやら普通の人とは違う形をしているらしい。

「きみは、不思議な人だ」

 俺がそう言えばダイゴはたまらなく嬉しそうにする。笑って、ん、と小さい口を突き出してきた。
 俺は自分用に切り分けた肉を少しだけ小さく切り分け直して、フォークに刺す。ダイゴに食べさせれば、赤い口に吸い込まれていった。 
 ゆっくり噛み締められて、柔らかい肉はダイゴの身体に消えていく。 
 くん、と飲み込んで。細くて白い喉の骨が上下に揺れた。

「少しはほぐれたかな?」

 おだやかにダイゴはそう言う。彼の目に映る俺の姿は困ったように笑っていた。