真っ暗な部屋には相変わらず雨の音だけがとんとんと満ちていた。青と灰色に満ちた部屋で、隣が寝返りを打つ気配して俺は閉じていた目を開ける。
薄暗い色彩に、ダイゴの目の色だけがぽつん、と浮かんだ。
「ねぇ、ぼくたちの関係って、なにかな」
俺のうなじに手を絡めて誘うように甘い声を出す。高すぎても低すぎでもない、静かな夜には心地よい子守唄のような声。
「答えを、……聞きたいかい」
そう聞くとダイゴは微笑んで、キスだけを。俺も、その柔らかい舌を貪った。
数秒。数十秒。啄むように、二回。もう一度深めて、一回。お互いの舌を、絡めあって、もう一回。
ダイゴは途中で止めて、
「きみのおかげで、やっと自分の気持ちに素直になれた」
そう言った吐いた吐息は、俺の唇を湿らした。
「ありがとう」
「……俺のおかげだけではないよ」
「なら、……お互いさま、だね」
「それを言われたらな」
くすくすと、静かに笑いあう。
俺たちは。
不思議な関係だと、おもう。
もし、俺があの子たちに、負けていなかったら。
もし、彼が防衛戦を続けていたら。
もし、俺がフスベを離れなかったら。
もし、彼が他の地方に行ってしまっていたら。
俺たちは、この冬、りゅうせいの滝で出会うことはなかった。
今にもちぎれそうな糸を奇跡が繋ぎ合わせたような関係。
それでも、すべての事柄がこの一つの結末という区切りを迎えるためのものであったなら、俺は。
「ダイゴ」
「……うん」
そっと、その身体を抱きしめた。俺が思ってるよりずっとずっと細い。すっぽり腕の中におさまってしまう。
そうだ。こんなに華奢で、折れてしまいそうな背筋だ。でも俺は知っている。
その背筋はしなやかにまっすぐだ。
「約束する」
だからこの決意はひとつの区切り。これから先の、未来のための。
「必ず、高みへ」
はっきりした約束は、ダイゴへの信頼と敬意だ。
「……ふふ」
ダイゴはわかりきっていたように俺の抱きしめる腕にそ、と触れた。 シーツを手繰り寄せて一緒に被せてくる。さらに暗くなった視界の中で、愛おしそうに笑った顔は、綺麗だ。
言っただろ。きみの目に迷いはない、と伝えるかのように。
「もう届いてるはずさ」
満足そうに微笑んだ。
儚げであるその白い肌と、頬を少し俺の体温で赤らめる。薄い色素の瞳はひたすらに自信ありげだった。
自分とは明らかに違う男の姿だけが、俺の腕のなかに、おさまっている。
瞳に互いに映り合う表情は、もう、寂しい顔はしていなかった。
俺も。そして、……きみも。
「きみの抱えているすべてを知りたい」
ダイゴは微睡んだ目で俺を見つめ、優しく頬に触れてくる。
「きみがまわりに与える、喜びも、自信も、切なさも、かけがえのないものも、……光も、影も」
とろ、とした言葉。舌が回らないらしい。眠気にどうにか負けないようにして、ダイゴは耳元に口を寄せてきた。
こんなにも、近いのに。
「つまりね……、ワタル……ぼく……──」
声はかすれてしまった。俺は目を見開いた。
「いま、なんて言ったんだ」
きみの本心が、やっとさらけだした。
そのはずなのに。
「……ダイゴ?」
隣からはすやすやと寝息しか聞こえなかった。きみはすっかり、寝てしまっていた。
確認することの、できないままに。
