不覚暁に星は輝く✱r18 - 30/34

 二人の気持ちはすでに熱に溺れていたことは確実だった。むしろ、ずっと抑えていたものが沸騰して吹きこぼれてしまったようで。
 自然な流れだった。ちっとも、おかしなことではなかった。
 扉が閉まる音とともに、ダイゴは俺に噛み付く。バタン、という音を皮切りに、俺たちは貪り合うように必死にキスをした。 
 理由はわからなかった。だけど、求めていたことだけは言える。 
 噛み付いてきた唇を、肩を、俺は掴んで扉に彼の背中を縫いつけるようにして押し付けた。 
 股の間に、足をくい込ませて逃げられないようにすると、ダイゴは息をますます荒らげていった。 
 止められるものはなにもない。

「ッ……」 
「ぁ……ふ、」

 もつれあう。 
 窓と天井を優しく叩く雨の音に、俺たちだけが静かに布ズレの音を響かせた。 
 暗い部屋で俺たちは耐えきれなくなったようにお互いの衣服をまさぐり合いながら、ベッドに向かう。 
 ほとんど脱げ掛けでだらしない格好になったところで、俺はダイゴをベッドに引きずりこんだ。 
 重みで軋んだベッドの音を聞き、すぐに覆い被さってキスをする。

「んっ……」

 数秒皮膚だけを優しく重ねる。舌で閉じた唇をトントン、と叩くと薄ら開いた。すかさず差し入れてお互いに絡める。 
 じゅ、と吸うとびっくりしたのか、ダイゴは身体を震わせた。そしておずおずと、彼も俺の舌を受け入れたかのように絡めてくる。 
 ちゅく、という音を合図に顔を離した。とろりとしたどちらのものか分からない唾液が糸を紡ぐ。

「っ……は……」

 見下ろした彼は前とは違って余裕はなく、気まずそうに目を逸らした。顔は少し赤らんでいる。暗くてよく見えないが、確かに彼は恥ずかしがっている。

「なんか、照れる、……ね」 
「……誘ったのは、きみだろう」
「え、っち、することじゃなくて」

 雨で濡れてしんなりしたベストを取り去って、肌に張り付いたワイシャツに手にかけると、ダイゴが恥ずかしそうにその手を掴んできた。

「自分の、部屋だからかな。なんかちょっと……ん……ッ、わ……」

 その手を優しく掴み直す。指の間をするすると撫でると気持ちよさそうに喉を鳴らした。それでも、ためらっている。

「ん……?」 
「その……」 

 手を取り去って、ワイシャツのボタンをひとつひとつ外していった。気づいてダイゴが目を丸くさせた。これからそういうことをすると知っているはずなのに、何もかもはじめてのことだったかのように、もじもじしていたダイゴの様子はおかしかった。
 前回とは、まるで違う。

「なんだい」 
「、……ッア……」

 つつ、と。シャツを捲った腹の筋を、ゆっくりと人差し指を使ってたどっていく。女のような柔らかさはない。確かに、男の肌だった。 
 でも、俺のものとは違う、誘うような皮。 
 薄くて、白く、少しでも爪を立てて引っかけば、ビリビリに破けてしまいそうなたおやかさがある。その皮がふっくらとしたお腹をたった一枚で守っている。
 ベルトを外し、スラックスを抜くと薄暗い部屋に白い肌が浮かんだ。脱がしながら、彼の体温を探る。
 お腹に、ふともも、脛も、足首も、足の指も。丁寧に指でなぞって、輪郭を確認する。
 暗闇に、ダイゴの喘ぎ声がぽつんと浮かんだ。

「ぅ、あ……」

 脇腹も、胸も、乳首も、首筋もうなじも唇も。すべて。 
 確かめるようにキスをした。

「……続けて」 
「……っ」

 彼は手の甲で自分の口を覆った。

「ダイゴ」 
「わるい、ことをしてるみたいで」 
「そうかな」 
「ふ、……ぅ、……ちょっとね。何も置いてないし、その、……」 
「あぁ、」

 胸に這わせた手を止めると、もどかしく腰が揺れた。

「確かに。きみの部屋は性的なものを感じない」

 暗すぎる視界にベッドの脇を探った。窓も扉も閉め切っているせいで色々勝手が悪い。間接照明ぐらいはあるだろうと手探りで辿る。なにもない。確かに、この部屋はさっぱりしていた。生活感もない。

「せ、ッ……」 
「わからないかな。男臭くないってことだ。でも逆にそそられる」 
「い、言わなくていいから……!」 
「何度だって言う」
「ッ……は」

 ちゅ、と耳の後ろにキスをした。

「……浅瀬のほら穴でのことを、もう忘れたのか」 
「なっ……」

 手を動かすのを続けた。急には触れず、乳首の周りの輪をくるくるとなぞる。二回目にしてつくづく気づいたが、ダイゴは、かなり皮膚が敏感だ。
 浅瀬のほら穴のときの、彼の乱れっぷりはすごかった。

「それとも、あれか」 
「あ、アッ……ん……や……」
「……きみは、外でするほうが、興奮するたちなのかい」 

 つぷ、と、乳首の先を爪で引っ掻き、潰す。熟れていくそれの感度は鋭く、ダイゴの喉が仰け反った。

「そ、そういうわけじゃ、アッ!」 
「どこでだって気持ちよくさせる。きみだって、そのほうが、……いいだろ?」

 暴れ始めた身体をねじ伏せるようにピッタリと顔と顔を密着させる。耳元で囁けば、逃げるように顔を横にそらした。 
 指の一本一本に、俺の指を絡ませた。布団に縫い付けて逃げられないように。

「ちが、だから違うっ……う、……ひぁ……」

 何が違うかわからないが、ダイゴは確かにこの部屋で後ろめたいことがあるらしい。

「性的……っでは、あるよ……たぶん」 
「……なにか、隠してるな?」 
「い、言わない」

 俺がいつまでたっても脱ごうとしないからか、ダイゴがとうとう痺れを切らして俺の服に手をかけた。その手に触れる。

「きみは隠しごとが大変多いね」 
「……んな、こと」 
「ひとつひとつ、吐き出させてやろうか」 
「んッ……ぁ」

 脱がそうとした手を口元に持ってきて指の骨にキスをした。人差し指の先を舐めると、ダイゴの力が無くなっていく。 

「そういうの、得意なんだ」
「……ぅ、ゾッとしないね。きみが言うと、何されるか」 

 手を振りほどいて、ダイゴは俺の上着をあっという間に取り去った。ベルトも手際よく抜いて、全部ベッドの下に落として、そのまま下に着ていたシャツに手をかけようとする。すっかり雨で濡れていたせいで、手間取っている様子。せっかちだな。
 主導権を握られっぱなしは彼の性格として許せないらしい。

「きみは知るべきだ。どれだけ」

 慌ただしい手を掴んで抱きしめた。引き寄せて、彼の後ろに手を伸ばす。

「俺を、求めているのか」

 バチッ、とやっと見つけたベッド横に置かれていた間接照明をつけると、俺の腕の中にある身体が跳ねた。俺を引き剥がすと腕を掴んで、信じられないものを見るように目を震わせていた。

「……電気を、」

 か細い声でダイゴが言った。

「消して。……消して、くれ」

 間接照明を消そうとしたダイゴの手を俺はしかと掴んだ。オレンジ色に照らされたダイゴの顔ははっきり青ざめていた。

「見られたくないんだ……消して、……ッ消してほしい」

 今までで一番、不安そうな声だった。優しくその首筋に触れる。

「……傷は、癒えたかい」 
「……え……」 
「俺が知らないとでも」

 ひとつめの隠しごと。
 ガバッと、うなじを隠しているたった一枚だけ肌に残されているワイシャツをめくろうとするとダイゴが暴れた。

「だ、ダメ。そこはまだ、」 
「……まだ、ダメなのか」 
「見せたくないんだ……消えてないから」

 消えてないということは、癒えてないことであり、俺に見せたくないというのは、ダイゴにとって触れられたくないことだ。

「……痛かったかい」

 ふるふると、ダイゴは首を振った。

「怖かったか」

 もう一度ダイゴは首を振る。

「見せてほしいんだ」 
「でも、」 
「……言葉を変えようか。なぜ、見せたくないんだい」
「きみに……」

 ずっと迷っていた言葉を、ひとつ、さらけだした。

「きみの持つものを、濁したくない」

 俺はその言葉を聞いて安心した。

「大丈夫、委ねてごらん」 
「ッ……」

 優しく抱きしめてキスをしながらベッドに沈ませる。

「全部、晒け出してくれ」

 一回、二回とキスを重ねるとダイゴが悲しそうな顔をした。傷ついたというよりかは、不安なのだろう。
 誰だって、人に汚されたものを他人に見せる度胸を持つには時間がかかる。
 それも抱かれる相手に見せるなら、尚更だ。
 でも、そんなのは俺にとっては些細なこと。ダイゴの中身に、なんら影響も関係もないのだから。

「俺の抱えるものはきみがおもっているより、」

 間接照明に手を伸ばした。スイッチを回して、少しだけ明るさを落とす。真っ直ぐ見下ろした顔は薄暗いが、これで十分だろう。

「透明ではないから」