ミシミシ、という音が聞こえてくる。
骨が軋む音。木を踏みしめる音。岩に亀裂が入る音。
連想するものは、多々あった。
結論から言うと、そんな生易しいものではなかった。
生易しいものであれば、まだマシだったかもしれないよな。
つぷ、と、葛湯に浸らせた長い指を眺めていた。
湯のみからゆっくりと引き抜いた白い指を、静かに股の下にくぐらせる。
「ん、……ぅ、」
唾液じゃどうしても足りなかったらしい。ダイゴは、そうやって水音をくちゅりと音を立てながら、後ろの窪みを右の指で解していく。
左は、おれの腹筋を押さえつけ、起き上がらないようにしている。
布団の横に置いてある、香炉がジジ、と炭を焦がしていた。
「ぁ……うん、やわらかいからいけそう」
人差し指の次は、薬指を入れる。
「みてて。……よくね」
二つの指でまざまざと押し広げてくる。おれに、見せびらかすように。
やはりダイゴはまだ、酔っ払っているらしい。普段の彼は、おれを煽りはするものの、ふしだらなことは滅多にしない。
葛湯が太ももを伝って落ちていく。そして、腹筋に垂れてきた。粘ついた感触に、思わず身体が動く。
「ダメだ。入れるまで、いい子にしててよ」
二つの指で押し広げた窪みに、今度は中指を沈ませていった。
「指輪」
「いい、……大丈夫」
それよりも、とゆらり目を動かして、お腹に置いていた指を下へずらした。
「ふふ、……硬い」
揉むように押したり、指をばらばらに動かして、掬う。少しづつ硬さを帯びたそれは、ゆるりと勃ちあがっていた。先を持ち上げて、魔羅を立たせると、
「ッく……」
眉を顰めながら、ゆっくり腰を沈ませていった。たっぷり解したとしても、いつもこの瞬間は緊張が走る。
「力、抜いて」
「うん、……わかってる」
おれのものにもう一度触れ、呼吸を落ち着かせる。そして、腰をくねらせて、膝をぺったんと畳につけていった。
「ッ……ん、……ん、ぁ、……ッ」
たんたん、と身体を上下に弾ませる。船を漕ぐようにお尻を動かすと、髪がしなやかに揺れていた。支えにしている脛は、畳のイグサに擦れて赤く皮膚がかぶれていった。
だけど、そんなことも気にならないほど、夢中になって、ダイゴはおれの上で抽挿を繰り返してる。
「ッ……い、……く」
ググ、とお腹を丸めていった。安定するように、腰を掴む。爪を食い込ませると、その痛みが気持ちよかったのか、ダイゴの身体の震えが大きくなっていった。
「イッて、」
「ッ……──」
ぱたた、と、白濁が飛び散った。
力が抜けてしまったのか、ダイゴの頭が後ろに落ちていく。慌てて起き上がって、背中を支えた。
「いったん抜くよ」
「だ……め、……だめ、まだ……」
彼の背中を布団に落としていく。次に頭を。
ダイゴは首を振った。力無げに。
「まだ、きみが満足してないだろ」
おれが腰を引こうとすると、ぎゅぅ、と、中が離れがたいように収縮した。
ギリ、と歯を食いしばる。
「きみって、子は……」
情けなくも、絞り出した声は掠れていた。
「後悔するなよ」
「いままで、したことあった?」
うなじに搦めてきた手が、おれの頭を抱きかかえる。ぎゅー、と力を込めて抱きしめるあたたかさと、やわらかさ。
「きみを、甘やかしたいんだよ。ボクは」
ズン、と、重くなったものを打ちつける。
「ん、ッぐ……!」
「くッ……」
奥にぶつかった感触がした。出し入れを繰り返し、もう一度深く突く。
「ん、あ……やッ……」
ダイゴの声が漏れて、ぴーん、と足のつま先がつっぱった。その足を掴んで、もっと奥に指を沈ませる。やがて柔らかい肉の中で、しこりを見つけた。先で触れるか触れないか程度に擦る。
「ぅ、んッ……ぁ、あ……」
「うん、……うん、気持ちいいよな」
奥まで進めると、ぎゅー……と中が締まっていく。肉はたまらなくぬくい。背筋に電流が走り、快感に呑み込まれそうになるのを歯を食いしばってかろうじて耐える。
さらに奥まで深めるに、腰を密着させ、太ももを持ち上げた。壁にぶつかった感触を確かに、息を深く吸い込んだ。
とん、とん、と揺さぶると、
「ん、あッ……アッ……ん、……んッ」
リズムに合わせて喘ぐダイゴの声は、弾んでいた。本能的に逃げようと腰が引いて、背中がのけぞっていく。太ももに爪を食い込ませて、膝を胸に折りたたむようにして力を下に押し込んだ。
逃がさないように。
「んんッ……んぅ……ッ」
「こっちの方が、いいだろ。深く入る」
「ひ、……く……ッ」
「無理に声を抑えないで。……その方が、もっと良くなる」
ぎゅー、とダイゴが足のつま先を丸めて、唇を噛む。まだ逃げようとするお尻を、おれの太ももの上に引き寄せて、もう一度強く上下に揺さぶる。
キスをする。深めると、唇を噛むのをやっとやめた。
舌を絡める。歯列をなぞって、じゅ、と吸う。
「ん、……ぁ……ッ」
あまかった。
「……ぅあ、タル……」
あつい。あつい、な。
「ぅ、……きもち、い……」
たまらなく、あつくて、のみこまれそうだ。
「……──わたる、……ワタル、? どうしたんだ」
ぺち、と。しっとり濡れた手がおれの頬を優しくはたく。
ぱた、と。首筋から喉を伝って一滴の汗が落ちていった。
ダイゴの顔に。
「どうした、って」
「手」
ダイゴに言われて気づく。おれは、ダイゴの片手首を、布団に縫い付けるような形で、キツく握りしめていた。
慌てて離した。
「すまない」
爪がくい込んで、手首は真っ赤だった。すっかり鬱血している。
「体勢、つらい?」
「……いや、」
「悪い顔をしていた」
「わ、……」
ふとその言葉に、喉が詰まった。ダイゴが呆れたように笑っている。
「……分かってないだろ、きみ」
ダイゴはおれの顔を引き寄せる。こつ、と互いの額を擦り合わせると、しんなり濡れた前髪がくしゃくしゃになった。
「可愛い一面だ。役得かな」
ダイゴの熱が額越しに伝わってくる。鼓動も。血の流れも。どくどくと脈打って、どちらの身体のものか分からず、まるで混ざり合うみたいだった。
「もっと、見せて」
唇を合わせて、深く息を吸った。舌を絡めながら、思い出したかのように、お互い下を揺らしあって、また、律動を繰り返していく。
「ん、ッ……んっ、ぅ、……ぁ」
揺さぶると、ダイゴが腰をよじって快感から逃げようとする。薄く開いた目は、生理的に出てきた涙で滲んでいた。
「……開いてくれるか、ゆっくりでいい」
そうお願いすれば、ダイゴが最初は躊躇いはしたものの、ゆっくりと足を開かせていった。
太ももの内側を持ち上げ、腰を上から下に向けて、沈ませる。
「ぅ……ふ、かぁ……」
密着する具合がさっきよりも、もっと。そうすれば、中が柔らかくなって、緊張が解ける。
緊張がほどけると、突っかかっていたものがすんなり入っていった。
「ダイゴの身体は、……しなやかで、やわいよな」
「急に、どうしたの」
前もそれ聞いたけど、と続けた言葉は息が切れていた。はふ、はふ、と息をしながらもなんとか言葉を返そうとしてくれる姿が、幼い子どもと同じで愛おしい。
すっかり汗でしんなりしている彼の前髪を払って、その小さな額にキスをする。
「なのに、手は、……意外と硬い」
「それは……よく言われるね。採掘してるからかな」
「きみの手が、おれは好きだよ」
そう言うと、ダイゴが驚いた。ばくん、と心臓が跳ねる音が聞こえた。
腹筋に力が入ってしまったらしく、ぎゅぅ、と中が締まる。
「なッ……」
「……手もそうだし、」
「ま、ッて」
指を滑らせる。額から、頬をするりと撫でて。
「やわい頬に」
「ちょ、……ッと急にやめ……」
首筋に、喉に。白く弾力がある肉に、破けそうな皮膚。
「まるごと食べてしまいそうになるよ」
ダイゴと繋がっているところに触れた。カッと赤くなった顔を見逃さない。
「ま、ッて、いま、そこ、ッ……は」
指で押し広げる。すると、赤く熟れた肉の間から、こぽりという音を立てて、白濁が滑り落ちていく。
「……ここだって」
目を細めて、じ、っとみる。
「ッ……ぁッ!!」
おれのものが入ったままのそこに、ぐち、と隙間を作るよう、指を沈ませた。
「もっと、暴きたくなる」
「や、め……ッ」
「きみの、言えないこと。隠したいこと。弱み。恥ずかしさ。すべて、まるごと飲み込んだら」
そしたら、きみは、受け入れてくれるか。
「ゆび、ゆびぬいッ……て、ほんと、イきそ……ッ」
おれに向けているその感情も、隠し続けている言葉も。今よりは、分かるようになるのだろうか。
「やめろ、って、言ッ……」
そのときは、きっと──
「──ッてる、だろッ!!」
ガツンッ、と、割れる音が聞こえた。
脳みそから鼻にかけて。
頭が後ろにのけぞって、鼻骨に痛みが走った。いつの間にかダイゴは上半身を起こして、おれを睨んでいる。ぜぇ、ぜぇ、と息を切らして。
視界がぐらりと歪んだ。鼻を抑える。
「ッ……っ、ぐ」
あつい。
いま、ダイゴは、おれに何をした。
口を開く前に、ボタタ……ッ、とぬるあついものが落ちた。
おれの鼻からだった。鉄錆臭い匂いがする。
ゆっくりと手をどかした。目の前では、ダイゴが目をキツくさせていた。眉は、困ったように顰めて。
目線をダイゴの顔から下に向ける。はだけた着物に、露になった白い肌。そして。
「きみ、ッ……本当に、どうしたの……」
点々と、落ちていた赤色。
血だ。
「ふ……、」
おれの、血だ。
「は、は……」
鼻を手の甲で擦る。ボタボタと落ちていく鼻血。
ダイゴが頭突きをしたからだ。彼の額も皮膚が擦れて赤くなっていた。
あのダイゴが。他の誰でもない。おれの下で組み敷かれている男が。おれのことを。
「え、ぁ、ちょっ゛……と……ぁ、ッ」
もう一度、今度はしっかりとダイゴを押し倒した。ガツンッと、彼の後頭部が枕にぶつかってしまう。
でも、気にしてられない。たまらないんだ。いま、気分が最高にいい。
「いいな、……うん、いいよな……そういうところが見たかったんだよ。おれは」
下でもがいて暴れるダイゴ。手首をひとまとめにして、頭の上で布団に縛りつける。
「ずっとな、」
なぁ、いいだろ。そろそろ、きみも限界だろ。
「待ちくたびれているのは、なにもきみだけじゃない」
求めてくれよ。おれが、痺れを切らす前に。
追いかけるのも、捕まえるのも、得意なんだよな。
なぁ、もっと、求めてくれよ。
もっとだ。
「ダイゴ」
「ん、……ぁ、ア゛ッ!」
ちゅ、と、喉仏にキスをする。
「……ダイゴ」
「ッ、ぁ、やめ……、やっ、やだ……ッ」
犬歯を使って、今度は柔く噛む。甘い汗の味がした。
「わ、わた、る……まって……ほんとうに、まッ……ぁ、」
鼻から滑り落ちる生ぬるい感触。鉄錆の匂い。もう一回しっかり手の甲で血を拭って、その手のままダイゴの足を高く持ち上げた。肩に乗せて、足を弾ませる力を使って思いっきり突いた。
ダイゴの目が、大きくかっぴらいていく。
「い、……イッ……く……ッ」
「おれを見て、ダイゴ」
「ッ……や、…………ぐ」
「そのまま、目を離すな。目をつぶるな」
ボタタ、と血が垂れる。ダイゴが頭を揺さぶる。
白い喉仏が、赤い血で浮き彫りになっていく様子が、たまらなく綺麗だった。
「きみは、そういう男だろ」
ギ、と、睨みあげるダイゴの目。
「おれをもっと、楽しませて欲しい」
押さえつけていた手首がもがく。汗で滑ってしまい、振りほどかれた。
「うつつを抜かしてるね、きみ」
ガシ、と、両手で顔を掴まれる。
「降参も、後悔もしない、って、ボクは言った」
そう言ったダイゴが足に力を入れてきて、ギョッとする。どこにそんな体力が。
「ちょ、……っと、待て、」
「んぁ……ぐ、……ッ」
「ッ……ダイゴ、足を解くんだ……、ダぃッぐ……」
背中に絡みつく足が、ぎゅうぎゅうと、締め付けてくる。中も、ぎゅーっと、締め付けて。
「……ぅッ……!」
「ぅ、あ゛、ぁッ……!!」
脳天にガツン、とした痛みが走って、力が脊髄から抜けていく。熱いものが込み上げて、おれとダイゴは一緒に果てた。
「……ッ……、はー……ッ」
額から汗が滑った。血と混ざって、鉄臭く、塩くさい。
前髪が邪魔だな。髪をかきあげるが、意味がなかった。視界が真っ赤だ。血が、頭に相当回っているらしい。
パチパチと弾ける赤い視界が、歪んだり、瞬いたりするのを繰り返す。
陽炎がよぎったようだった。まだ、ぐらぐらとぶれる。
目をつぶって、額を抑えた。鳴り響く鈍痛を感じながら、ゆっくりと目を開ける。
「ッ……」
身体が揺れた。ダイゴの上に倒れる。ドクンドクン、という音がうるさい。ダイゴの脈の音か、おれの鼓動の音か、分からなかった。
布団の上に投げ捨てられているダイゴの手に、手を重ねた。汗でしんなりしていた。
「……聞こえてる、か。……手を、握って」
「……ぁ……う、……」
優しく指をからめる。ダイゴの汗ばんだ指は、痙攣するだけで、握り返してはくれない。
「……、きみは、やはり、予想がつかないな」
手を握ったら、握り返す。
いつの日からか、言葉にできないものを伝えるときに使う、おれたちの合図になっていた。
安心したいとき。無事だと知りたいとき。
謝りたいとき。相手を理解したいとき。
引き止めたいとき。離れ難いとき。
大丈夫だと伝えたいとき。相手を信頼してると伝えたいとき。
相手を知りたい。自分を知ってもらいたい。 さらけだしたい。さらけだして、もらいたい。
おれたちがどうしても言葉では足りないことを伝えたいときに、ふと使うようになった手段の一つ。
他の人には絶対にしない行為だったはずなのに、おれとダイゴは、自然とするようになった。
おれもそうだが、ダイゴにも、人との距離にはルールがあるらしい。
握りしめる強さだとかに怖がってしまう人もいるだろう。逆に、容易く離してしまう怖さに、元々触れることを拒絶する人だって、おれは、おれたちは、何度だって見てきた。
おれとダイゴは、それでも、お互いにある何かを確認したくて、手を握りしめる。
容赦なく。遠慮なく。そして、見境なく。
──重なると、ひとつになっているようで、
ダイゴがそう話してくれたときがあった。
──そばにいる、って感じがするから
手を握ると、生きている実感がする。ぬくもりを感じる。手の中に巡る血が、鼓動を繰り返す音が、自分の皮膚越しに伝わるのがたまらないらしい。
握り返してくれないときもある。振りほどいてしまったときもあった。
今だってそうだ。だけど。
「……わた、る」
右手にあたたかい感触がして、意識が戻る。
目を下に向ければ、指がしっかりと、おれの手を握り返していた。
いつだって、じっと待っていれば、きみは必ず応えてくれる。
そして。最後には必ず、
「……ふふ」
おれの全部をさも当たり前のように受け入れて、満足そうに微笑む。
ダイゴが、力ないもう片方の手で、おれの頬に触れた。顔を近づけると、ふんわりと、今にもどこか消えてしまいそうな匂いがした。
これは、どこで嗅いだ匂いだったか。すぐには思い出せなかった。
こつ、とおでこをぶつけ合うと、痛みが走った。
ダイゴに負わされた傷の痛みが、ミシミシと響く。
「なんて顔、してるんだ。ワタル」
そう言って重ねた唇は、汗で濡れていて、酷く柔らかった。
