不覚暁に星は輝く✱r18 - 10/34

 四、雪解け

 

 深い、キスだった。
 味わうように、体温を、分け合うように。きみとの二度目のキスは。
 押し倒した俺の上に跨って、逃がさない、と釘を打つように頬を両手で挟んでキスを貪った彼は、どこか、必死な様子に思えた。

「ん……ぅ、……」

 投げ捨てられたままの自分の荷物に手を伸ばして、ゴソゴソと何かを探る。

「準備、しないと」

 彼はようやく上半身を起こした。ゆらりとした動き。
 慣れた手つきでするりと抜いた深紅のスカーフは、俺の胸の上に垂れてくる。

「……ねぇ、きみは、どっちがいい」

 彼は俺を見下ろした目を細める。

「どっち、って」
「……セックスには、役割があるよ」
「……あぁ、」

 合点がいった。直球にいえば、どっちが、どっちを、抱くのか、という話だ。単純だ。だけど、複雑。

「どっちも嫌だと答えたら」
「じゃあ質問を変えるよ」

 ひとつ、ふたつ、上からボタンをはだけさせた。薄くて白い胸が、シャツの間を縫って顕になる。

「どっちの方が、マシかな?」
「…………」
「ボクは、きみを抱けるよ。……でも、まずはきみの気持ちを聞きたい」

 すす、と俺の頬を撫で上げてくる。

「抱いてもいいの?」

 ねっとりとした言葉をかけて、

「それとも、」

 首を傾げて口角をあげる。さながら妖艶。

「……ボクを、みっともなくしてみる?」
「……言い方」

 頬に触れる手を掴んだ。そして俺の腹に乗り上がった脚をそのままに起き上がる。
 太ももにダイゴを座らせて、俺たちは向かい合った。
 顔と顔の距離はわずか二cm足らず。呼吸すら感じる。

「……俺はきみのせいなんかにもしたくない。だから、」

 俺は上着を脱ぎ捨てて中に着ていたインナーひとつだけを残す。かなりぐちょぐちょだった。重さのあるものが無くなれば、肩は軽く動きやすくなる。
 一呼吸おいて、言い聞かせるように言葉を吐く。

「俺が抱く」

 ダイゴは、くす、と笑った。

「……興奮できる?」
「だから言い方」
「ふふ……これは冗談。悪かったよ。……嬉しくて、……興奮してるのはむしろボクのほうだ。その気持ちを共有したい」
「抱かれることが?」
「いや、」

 そういうとダイゴは恥ずかしさなのか、さっきとは打って変わって生娘のように嬉しそうに微笑んだ。

「きみの、かすかな本心が聞けたから」

 言葉が終わらないうちに勢いよく、ぐい、っと、首を引き寄せられる。そのままキスをされた。
 押し相撲のようだった。俺はダイゴを押し倒そうとしたし、ダイゴも俺を押し倒そうとして少しも進まなかった。キスだけをむさぼった、野性的ななにかだ。
 折れたのは俺の方。もともと彼が俺の上に乗っていたのだから、抗う力のかけ方は少しだけダイゴの方が有利で、ゆっくりと、ゆっくりと、二人の体は折りたたまれるように倒れていく。
 彼の力と、揺るがなき心と、性欲に溺れた態度。
 撤回しないといけない。
 生娘なんて、そんな生易しいものじゃ、ないね。

「ちょっとまってて。慣らしてから……」

 そう言って彼は、さっきからゴソゴソと漁っていたカバンから、取り出してきたものは、

「潤滑油なら持ってる」

 トロ、としたそれは、独特のすっぱい匂いが漂う。俺は慌てて起き上がった。

「待て、潤滑油?」
「うん」
「さすがにそれはダメだろ」
「え……でも、慣らさないと」
「他にはなにかないのか。……もっと、人体に害のないものが」

 ダイゴはキョトン、とした顔をして、もう一度カバンを漁り出した。
 細くて長い指が取り出したものはちいさくて平べったい缶だった。

「……あ、クリームが」
「……同じじゃないのか」
「といっても、工具用じゃなくて手荒れを防ぐものだから。……これで、いい?」

 さっきまでの自信はなんだったんだろうか。
 おずおずと聞いてきた目に、仕方なしにこくりと頷くと、安心したように息をついた。
 ベルトを外す音が、聞こえた。チャックに、布ズレの音。カンテラだけが照らす、ぼやけた視界の悪さと、横たわった姿勢では、ダイゴの様子は曖昧だった。
 お腹に沈んだ重さが消える。彼は俺を見下ろしたまま腰を少し浮かせて、缶からクリームを掬った。
 クリームを絡ませた人差し指と、中指を後ろ手に回すと、ゆっくりと差し入れていく。
 ここからじゃよく見えない。だが、揺れる下半身と息遣いで嫌でもわかってしまう。

「っ……ァ、……ん」

 つぷ、と。粘着質な音が遅れて聞こえてきた。

「うご、かないで、よ。……きみは、そこでじっと見てて」
「ッ……」

 俺がかけようとした声を塞ぐように、ダイゴがもう片方の指で唇に触れてくる。

「ッ……アッ」

 上手く指が奥までに届かないのか、時折そうやってムズムズと声を漏らしながら、彼の腰はゆるゆる高さを上げていった。
 そろりと目だけを下に動かす。
 下着の隙間で、彼の指が揺らめいてるのと、クリームが温度で溶けて垂れる姿だけがなんとか確認できる。
 二人の呼吸と、わざわざと自分が抱かれるために男の上で念入りに下ごしらえをする、粘着質な音だけが閉じ込められた狭い空間に、それはよく響いた。
 ぐちゅ、と。何度も。

「も……いい、かな」

 そう言って彼の中から三つの指がゆっくりと抜かれる。すっかりぬめりけを帯びたクリームの、ごぽ、と泡立てる余韻は、糸になって彼の指にまとわりおいかけた。
 糸は切れてゆっくりと俺の腹に落ちていく。
 陽炎のような蒸気が突然頭によぎり、ぐらっと、目眩がした。

「脱がすね」

 下ごしらえを充分に終えたダイゴは今度は俺のものに取りかかる。ベルトを抜き取って、丁寧にズボンと下着をめくっていった。
 くたびれた、それを見たダイゴはちょっと、ドキ、としたような顔をした。

「……」
「まじまじと、見るようなものでは無いよ」
「……ぼくのとは、」

 ダイゴは腰を後ろに動かして俺の股の間に移動していく。

「全然、ちがう」

 そ、と、手を添えるように触れて握った。

「ッ……」
「体温も、形も、……柔らかさだって」

 指を、一本一本、大切に扱うように、絡めて、首を下にしならせて、はぁ、と、吐息を性器に被せるように吐いた。ぺち、と頬にぶつかる。まさ、か。

「ッダぃ、ゴ」

 彼はそれを勢いよく口に含んだ。あまりにも早かった。俺は、急いで顔を剥がそうとする。だけど、彼は睨んできた。

「ッ……」

 動いたら、殺す。とでも脅すような、鋭い目だった。

「……ッは」
「ぅ、……、ん……」

 ちゅる、と。何度も、何度も、温かい舌は出入りを繰り返す。たまに喉の壁が亀頭にぶつかって、ぐ、と飲み込むように喉を搾った時は、さすがに本能が頭の中に流れてきた。
 男が、男の快感を知るからこそできる無駄のないやり口だ。嫌でも反応する。

「んぅぅ……」

 小さい口はしばらく好きなようにまさぐる。二人とも、息は絶え絶えで。
 ダイゴが口をゆっくりと離して、

「……発情って、きみもするんだね。そうは、見えないから」

 そう言った舌からつるりと落ちる彼の唾液は、糸を紡いで亀頭を濡らした。とても、熱く感じた。
 ダイゴは上半身を起こした。
 すっかりそそり立っている俺の先を触って、驚いたかのように、さも、嬉しいように顔を赤らめた。

「ね」
「……ダイゴ」
「そのまま、で」

 ダイゴは自分の股の間に俺の性器を挟むように、足を折りたたんで座った。
 ぺり、というこの場に似つかわしくない音が聞こえて、俺は、ぎょっとする。

「きみ、なんで……それを……」
「……なんでだと思う?」

 ダイゴの手にはどこから取り出したのか。どう見てもコンドームにしか見えないそれを、俺のものに丁寧に被せてきた。

「考えてみて」

 やんわりと俺の性器を改めて包み込んだ指は、ゆったりとした動きで固定して、そのままダイゴはお尻を高くあげた。
 自分が念入りに準備して広がりきった穴に、添える。

「ッ……」
「グッ……」

 かなり、狭くて、きつい。
 指とペニスじゃ、何もかも違うだろうから。重さも、太さも、固さも、押し広げる恐ろしさも、なにもかも。
 それをはっきり示すかのように、彼は表情を歪ませた。
 汗がたらり垂れて、頬を滑る。

「……ッはい、る、から」

 ゆっくりと、ダイゴは腰を落としていった。ときおり手を地べたにつけて、前のめりのままに休憩。息を整えれば、また再開する。
 それでもまだ半分もはいっていない。

「ゥアッ……、ぐっ……」

 明らかにダイゴの様子はおかしかった。苦痛に歪み無理をしている表情。

「ッ……ア! な、なんで……」

 俺は起き上がって、彼の腰を掴んだ。そのままゆっくりと体勢を変える。彼に刺激を与えないように押し倒した。
 逆転する。今度は俺がダイゴを見下ろした。

「抱くって、言ったのは俺だ」
「ッ……」
「それに、無理しているね。……きみ」
「アッ……アッ……!」

 上から奥に落とすようにゆっくりと熱を入れていった。

「ッ……!! ヒッ……ぃ……ッ!!」 

 足が俺の腕越しにぴーん、と張る。

「あと少しだ」
「ッ……は、ぁーっ……ッぁーー……はーっ……」
「あと、すこし」

 震える頬を、やさしく、できるだけやさしく、触れた。目を瞑る力が入りすぎて目尻には、シワが。
 もったいないな。と、不思議と俺は彼の目元にキスをした。

「ゥアッ! な、なに……」
「キスだよ」
「……ッ! うご、か、ないで、ぁ、……」

 彼は片目だけそろりと開けたら、また瞑った。それを宥めるように俺はキスをした。あと、少し。
 トン、と、なにかにぶつかった音がした。

「ッッ──!!」

 ダイゴが、びくん、と跳ねた。

「ココか」
「あ、ぇ、」

 ダイゴが怯えたように、きゅう、と瞳孔を小さくさせた。腰が後ずさる。それを許さじとして、ぐ、っと、掴む手に力を入れた。

「わかるかい。ぎゅうっ、て、中がしまった」
「……だ、っ、そ、んな、こ」

 コン、コン、と、カリでしこりを叩くとダイゴが喚き始めた。

「し、しらない」
「ん……?」
「ちが、……こんな、はず、じゃ、」

 はくはくと、支離滅裂。頭は真っ白、なのか。言っていることがめちゃくちゃになっている。

「こ、……んな、……しら……ッアッ!」
「悪いけど、そろそろ、」

 グリ、と、しこりである前立腺を潰して、奥の奥をいじめる。ダイゴの言い分なんて今は気にしてはいられない。
 なぜなら、

「こんなの……しらないッ……!」

 それは、たまらなく気持ちいい、ってことだ。

「足、あげるよ」
「んァッ!!」

 足を上に高く引っ張って、さらに中の奥へ、腰を落としていく。そして上手い位置に収まるように、腰を掴んでトントン、と上下に揺らせばダイゴはひときわ跳ねた。
 ギュウッ、と、中がしまる。肉の壁は、ぐつぐつしていた。熱くて、とけそうな。

「ひ、……ぃっ、あ、アッ……ヤッ、アッ!!」 

 せっかくなのだから。右も、左も、上も下も。なにもかも。わからなくなってしまえばいい。
 トン、と。先が結腸にぶつかるとダイゴが、

「あ……ッ……、まって、だ、ぁ、」
「イきそうか?」
「ん……ッ、ちが、……」
「なにがだ」
「……め、になりそう、なんだ」
「うん……?」

 っ、と、彼は息を止めた。そして絶え絶えに吐いた。

「……ちょっと、ダメ、にな……ッ」

 ダメ、か。ダメ、になるのか。
 息を絶え絶えにして、余裕のない表情は、俺の中にあった彼のイメージというものを脆く崩れさせた。
 あんなにも、強く、凛々しく、堂々としていて、自信満々の若い男は、容易く、俺の手の中で喘いでいる。
 その事実。
 ゴ、り、とえぐる音が確かに聞こえた。結腸を潰す。

「ア゛ァッッ………!」

 俺の肩にしがみついた爪が、あまりもの刺激に耐えきれず肌にくい込む。痛くはないが、もしかしたら鬱血してしまったかもしれない。
 そのとき。
 パチ、と。カンテラの灯火が消えた。ダイゴの足元にあったそれに、彼の踝が暴れた弾みで当たってダイゴの顔側へ転がっていく。

「ぎッ……!!」

 転がってしまったカンテラを掴もうと、俺が中にハメたまま上に動いたせいで、ダイゴは快感を拾ったらしく、また大きく足を上へ蹴った。じたばたと暴れる太ももを抑えながら、手を上に伸ばす。

「カンテラが」
「そ、の、ままで……!」
「なにもみえない」
「いいから、や、やだ……いやだ……ッ」

 嫌がっているダイゴを無視して、俺は手をさらにめいいっぱい伸ばした。ぐり、と、中に収まっている性器が横にずれて、内蔵をえぐるような感覚。ダイゴはまた喚いた。

「ァア゛ッ!!」
「届いた」

 取っ手を掴んで、カンテラを取り戻す。バチ、と、電池の接触面が上手くいったのか、光が灯った。
 カンテラの下にあったダイゴの顔が、真っ白に映し出される。
 真っ赤に染めあがった顔は、涙でぐっちょりしていた。
 バッ、と、肩を掴んでいた手で慌てて顔を隠す。だが、遅い。

「み、」

 その手を俺は掴んだ。カンテラを置いて、顔を覆うもう片方の手も剥がす。
 もう隠さないように、顔の横の地面にそれぞれ縫いつけた。

「みないで」
「きみ、」
「みないでってば。はなして」
「……そんな、顔が、できるんだな」
「ワタル、お願いだから、」

 腰を動かした。ダイゴは歯を食いしばる。

「ッッ゛〜〜!!」

 ぎゅ、と、目を瞑ってまた、涙が落ちる。ひらいた唇、寒さでガサガサに青いけど、零れた唾液が湿らして、赤く火照っていく。
 前髪は乾ききっていない水分で額に張り付いていた。海水ではない。彼の汗だ。

「っ……ぁ」

 唇にキスをした。皮膚を柔らかくするように。
 何をされているのかわからなくなってしまったのか、ダイゴは赤ん坊が乳首にすがるように、必死にキスを求めてきた。
 地面に縫いつけた俺の指に、ようやく自分の指で握り返す。ほぐれていくのが、わかった。
 律動を繰り返すうちに波立つ中が、ぎゅ、と突如締まったとき、ダイゴは唇から弾かれるように顔を背けた。
 その顔を見下ろす。目は大きく開いて、瞳孔は震えていた。
 その様子は、まるで殺されてしまう間際に恐れ怖がる人間の姿と酷使している。

「も、……だ、……ぁ、く、クる……クるっ……!」

 ガクン!と、足が大袈裟に揺れた。ビクッ、と、はねた身体に、反り返る腰、背中。見開いた目は、わなわなと焦点が定まらず。
 そんな、全てをさらけだした姿で彼は射精した。

「うっ……うっッ……」

 服を汚さないようにと急いで俺の手の中におさめた性器からびゅくびゅくと泡立った。指を伝って落ちていった精液は白く、どろりとしている。

「ぅ、……あ……」

 改めてダイゴをまじまじと確認した。
 はだけた衣服に、だらしない表情。白柔肌を汚す、性的なもの。それなのに清純で華奢な身なりをしている。
 新聞に堂々と載っていた男には、どうしたって見えない。
 矛盾した姿だ。だけど、目に、悪い毒を秘めている。

「ッ……」

 たまらなくなったのは嘘ではなかった。腰にきた痺れに、嫌な予感がした。
 ギリギリで抜いて、精が漏れ出る。さすがに中は、と思って、コンドームをしていたとしても、俺は外に自分の熱を逃がした。
 それを、

「……」

 目線を戻せばすっかり正気に戻っていたダイゴは、少し、ムスッとしていた。
 汗でぐしょぐしょになった前髪を俺はしっかりとかきあげる。

「後ろ向いて」
「いやだ」
「……向いて」
「ボクが乗る」
「体力、あるのか」
「腰を振ることぐらいはできるさ」
「官能的だな」
「なっ……」

 青かった顔がまた赤くなる。ダイゴは諦めたくないらしい。

「とても、魅力的だとは思う。だけど、」

 ちゅ、と、頬に触れた程度のキスを。

「俺に、任せて」

  本をめくるように身体をひっくり返した。ぐったりしている腰を高くあげる。

「ま、って」
「誘ったのは、きみで」
「あ、……ぁ」
「決めたのは、俺だ」

 ゆっくりと、まだ固さがあるそれをもう一度沈ませていく。今度は後ろからもあってすんなり入っていく。
 埋まっていく度、穴のひだが中に吸い込まれそうだった。
 ひくひくして熟れているのは、まるで期待しているかのよう。

「ぁ……あぁっ……、」

 傍に捨てっぱなしだった自分の上着を、彼は手繰り寄せる。ぎゅっと抱き締めて、ひんひんと‪喘ぎ始めた。
 さっき死にそうになった快感がすっかり怖くなってしまったのか、逃げようとした腰を爪をくい込ませて留める。引き寄せるままに、バチュンッ、と中に沈めると、

「ア゛ぁッ!!」

 ダイゴの腰が落ちそうになる。お腹を支えて性器をやんわりと握ると、

「む、……む、り、」

 俺をふりかえって顔を横に振った。ぐったり引きつっている顔に対して、俺は安心させるように、にっこりと、笑う。もう少し。

「一緒に、気持ちよくなってみようか」
「ッ、も、む、っ、だって、おか、」
「きみの、癖が分かった気がするんだ」
「ッ……! ッ……ッい、イッてる、ぼく、いま……イッ……!」

 確かに、直腸の中は収縮していたし、俺の手の中では、イキすぎてサラサラとしたものが流れていた。

「ゆっくり、息吸って。わかるか」
「ん、んんッ……」
「吐くと、ほら。キュ、と、中が締まる。そして、」

 もう一度しこりを潰す。結腸も、潰す。

「ぅあア゛ッッ!!」
「いま、固いのが潰されただろ。これが、きみの気持ちいいところだ」
「っふ……ぅ、ん……ッ」

 聞こえて、ないか。とめどない快感を受け入れるか、抗うか。正気を失うか、取り戻すか。
 死にそうになる手前で、ダイゴはもう限界だった。
 目が、とろ。としている。気絶する寸前だ。俺は、ワイシャツが下にズレ落ちていって、浮き出ている背骨にキスをした。まっさらな肌。

「真っ赤だ」
「ッ……」

 パチ、パチ、と。カンテラが悲鳴をあげる。ライトを取り替えるのをすっかり忘れていたから、そろそろ限界なのだろう。点滅するたび、衣服の合間からはみ出ている彼の赤く火照った肌が、白く色づいたり、黒く色づいたりする。そ、と、耳元に口を寄せると。
 ダイゴが、びくり、と、怯えた。

「皮膚が、焼け焦げたように」

 冷たくて濡れているここに、声はとてもよく反響した。
 ダイゴが最後の抵抗で倒してしまったカンテラが海に転がっていく。
 落ちれば、二人きりの洞窟は今度こそ真っ暗になった。